「正直なところ、ただ単に勝てればいい、勝てばいいという感覚は僕の中にないんです」
ただしそれは「面白いチームさえできれば、勝てなくてもいい」、「優勝を目指しているわけでない」という意味ではない。勝利を目指すアスリートとしての本能は今なお十分に備わっている。でなければ、昨シーズンの東地区5位、17勝しかできずに、一歩間違えれば入れ替え戦に進んでいたかもしれないチームへの移籍にも二の足を踏んだはずだ。若返りを図っているとはいえ、古川はまだまだ日本代表に選出されてもおかしくないシューティングガードである。明言こそしなかったが、自由交渉リストに載った古川に交渉を持ちかけたチームは秋田以外にも多くあったはずだ。それでも彼が秋田への移籍を決断したのは、このチームであれば自分の力をチームの浮上に役立てられる、そのような起用をしてもらえるはずだと感じたからだ。昨シーズンの結果だけでは見えない伸びしろが、秋田の魅力として感じられたからである。
「いろんなチームでいろんな経験をしてきて、ざっくりした表現ですけど、やっぱりいいチームが勝つんですよ。それがこのチームならなれると思ったし、この選手たちとならやれると思ったし、なによりこのチームでプレーすることがすごく面白いだろうなって思ったんです」
もちろん1人の選手としてもうまくなりたい向上心はある。しかし何か新しい技術を身につけて、プレーの幅を大きく広げたいとは思わない。年齢的なことを考えても、そういう時期に差し掛かっている。しかし、いや、だからこそ、自身にマイナーチェンジを加えることでひとつひとつのプレーの質をあげていきたいと古川は考えている。状況判断のスポーツと言われるバスケットで、ひとつひとつの判断に対するミスや、単純なターンオーバーを減らすことができればチームの流れを崩すこともない。それはチームの勝利に直結する要素でもある。
「そのうえでコミュニケーションをしっかりとって、自分の経験を若い選手やチームに伝えていきたいんです。そうすることで選手としての深みというか、厚みというか、そういうところも自分のプレーヤーとしての成長につながると思うから。昔から成長を求め続けてきて、その根本は今も変わっていないかもしれないけど、そのニュアンスが少し変わってきているのかな」
無名の高校生が東海大学で頭角を現し、日本代表にまで上り詰めた。しかしそれだけでは飽き足らず、日本代表のためにドイツへの移籍を検討したこともある。結果的にそれは実現しなかったが、成長を求め続けてきた古川だからこそ、これまでとはニュアンスが異なるとはいえ、今回の移籍にもそのキーワードはしっかりと込められている。
part2へ続く
文・写真 三上太