「いぶし銀」、「名脇役」、「侍」――彼を形容するいずれの言葉さえもすでに超越しはじめてきた感がある。千葉ジェッツの石井講祐は2018-2019シーズン、成功率45.2%でB.LEAGUEの「ベスト3ポイントシュート成功率賞」を獲得したが、彼の持ち味は3ポイントシュートだけではない。冒頭のような“枕詞”はむしろディフェンスやルーズボールといったスタッツに残らないところに拠るものだ。マッチアップするエース級の選手たちに硬軟織り交ぜたプレッシャーをかけてミスを誘うと、こぼれたボールにスルスルッと、それでいて素早く反応し、千葉ボールに変えてしまう。
一方で、スタッツに残るリバウンドやスティールはそれぞれ1試合平均2本、1.4個だが、それらはゲームの重要な局面、つまりは流れを変えるような場面でおこなわれている印象が強い。勝敗を左右する場面になればなるほど集中力を増す富樫勇樹の得点力にも劣らない、石井の真骨頂である。
レギュラーシーズンの終盤、ホーム・船橋アリーナでおこなわれたアルバルク東京戦でもその本領は発揮された。ゲームは残り2秒で富樫が決勝のジャンプシュートを沈めて、千葉が劇的な逆転勝利を挙げたのだが、その試合で石井は個人のシーズン最多タイ、5つのスティールを成功させている。しかもそのすべてが第4Qで成功させたものだ。逆転へと結びついた石井のプレーに大野篤史ヘッドコーチも「今日のMVPは講祐ですよ」と認めていた。そのとき石井自身はこう言っている。
「3ポイントシュートを決めることはあくまでチームの勝利だったり、優勝するという目的のための手段の1つだと思っています。その手段と目的を履き違えてしまうと、どうしてもそっち(3ポイントシュートの成功率)に引っ張られてしまうんです。だからもし3ポイントシュートがうまくいかなくても、僕はディフェンスやフロアバランスをとるといったほかの部分で貢献できると思っているので、今日は最後にそれができたのはよかったと思います」
選手それぞれに特長があり、得意とする武器もある。それによってチーム内での役割が決められるのだが、だからといって3ポイントシュートを武器とする選手がディフェンスをしなくてもいい、という話にはならない。むしろオフェンスでどんな役割を求められようとも、ディフェンスはすべての選手が一様にハードワークを求められる。その点で言えば石井のハードワークは当たり前なのかもしれない。しかし当たり前のことを当たり前にすることの難しさは、バスケットに限った話ではない。むろん高い意識を持ってさまざまな努力を続けているからこそではあるが、「プロアスリートとしての当たり前」を当たり前にできる石井だからこそ、今シーズンのSpirits的「ベストハードワーカー」の称号を進呈したい。
映像提供:バスケットLIVE
※選手所属は2018-19シーズンによる
文 三上太
写真 吉田宗彦