泥臭くゴール下で献身するのが自分の仕事(#25荒尾岳)
「この1勝はめちゃくちゃ大きいです」
10月13 日、川崎ブレイブサンダースを80-68で破ったあと、記者団に囲まれた荒尾岳の声が弾んだ。
「川崎さんはすごくいいチームで、必ず優勝に絡んでくるチームです。そういう強豪チームに勝てたということはこれから長いシーズンを戦っていく上で自分たちの自信になると思います。格上と言われるチームであっても今日みたいなプレーをすれば勝てるんだと」
今シーズン、滋賀には外国籍選手を含め7人もの選手が新加入した。その1人である荒尾の身上は激しいコンタクトも厭わない泥臭いプレーだ。この日は足を痛めたガニ・ラワルに代わって先発出場すると、200cm超の外国籍選手がひしめくゴール下で身体を張り、チームに流れを呼び込んだ。「荒尾の働きは本当にすばらしかった」と、語るショーン・デニスHCから笑みがこぼれる。
「今日の荒尾は彼らしい身体の強さだったり、ディフェンスでの存在感を見せてくれました。とてもバスケットIQが高い選手なので彼がコートにいるとき、チームの出来は間違いなく良かったと思います。彼の働きがあったからこその勝利だったと思います」
しかし、ショーンHCの“賛辞„も荒尾本人にとっては“あたりまえ„のこと。ゴール下での献身的プレーは「それをやらないと(自分には)他にいいところがないですから」と笑ってみせた。青山学院大からトヨタ自動車アルバルク(アルバルク東京)、千葉ジェッツと、一見華やかに見える道のりの途中にはケガに苦しむ期間もあり、なかなかプレータイムを得られない苦しみも味わった。だが、チームのために身を挺す姿勢と、そこに懸けるプライドに変わりはない。「メンバーが大きく入れ変わり、図抜けたオフェンス能力を持つ選手はいない分、全員でノーマークを作って、全員でディフェンスをするチームだと思っています」という今年の滋賀の中では担う責任も重くなるだろう。が、今はそのプレッシャーもモチベーションの1つ。「自分がやるべきことはわかっています。そのために僕はこのチームに来たんですから」という一言が頼もしく響いた。
滋賀はより自分らしさを発揮できるチーム(#8 二ノ宮康平)
二ノ宮康平が持つスキルの高さは京北高校時代からすでに定評があった。進んだ慶應大学では下級生のときからメインガードを任されインカレ優勝にも貢献。しかし、トヨタに入ってからは状況が一変し、ベンチを温める長い時間に悩むことも少なくなかった。昨シーズン移籍した琉球ゴールデンキングスにおいても際立った活躍は叶わず、その中で決意した滋賀への移籍。新たなユニフォームを身に付けた二ノ宮が口にしたのは「自分のスタイルにマッチしたこのチームでやることがすごく楽しい」という言葉だ。
「僕はそれほどシステマチックにやる選手ではなくて、どちらかと言えば自由にやらせてもらうことで自分らしさを発揮できるタイプだと思っています。今、ようやくそういうチームに巡り合えた気がします」
今までの7年間はそれぞれのチームの色に徹することを心がけてきた。
「誤解がないように言いますが、アルバルクも琉球もすばらしいチームです。不満があったとかそういうことではありません。ただ、ここ(滋賀)では、ショーンHCがすごく自主性を重んじてくれるので、より自分らしさを出せる気がして、単純にそれがうれしいです」
ショーンHCから言われているのは「自信を持って自由にやれ」ということ。それだけに川崎との2連戦では自身のシュート確率の悪さに責任を感じた。ショーンHCもまた第2戦を振り返って「シュートが入らないことで二ノ宮が自信を失くしているように見えたので1度ベンチに下げて『もっと自信を持ってどんどん打っていけ』と伝えた」という。二ノ宮がそれに応えたのは4Q開始2分半で川崎に60-57と追い上げられた場面だ。放った3Pシュートがネットを揺らし、これを機に滋賀は相手に傾きかけた流れを呼び戻した。このときショーンHCは二ノ宮と交代させるべく伊藤大司をスタンバイさせていたが、そのまま二ノ宮のプレー続行を選択。二ノ宮はそれを『そうだ、自信を持って打て』というコーチからのメッセージだと捉えた。
「調子が悪いときでもコーチは挽回するチャンスを与えてくれる。だからこそそれに応えたい気持ちが増してきます」
自由にやっていいということには責任が伴うことは重々承知している。自分のスタイルを貫きながら、仲間を生かすバランスの難しさもわかっている。「それでもというか、それだからというか、やりがいを感じてます」――本領発揮の8年目に向けて気持ちは充実している。
ベテランとしてのプライドと責任を持って戦う(#35伊藤大司)
「トヨタ時代に一緒にプレーした荒尾と二ノ宮とまた一緒に戦えることがうれしくて仕方ないです」と、笑顔を見せたのは今季レバンガ北海道から移籍した伊藤大司だ。その言葉にもあるとおり、メインガードを務めたトヨタ時代は荒尾、二ノ宮とともに汗を流した。
「僕らは3人ともトヨタ、千葉、琉球といった強豪チームでプレーして、優勝経験もあれば勝ち方も知っています。ここはこうするべきだ、こう動くべきだ、ここはディフェンスで1本止めるべきだといったことを瞬時に共有できることは大きい。2人が来てくれたことは本当に心強いし、この機会を存分に楽しみたいと思っています」
高校からアメリカに渡り、ポートランド大でプレーした伊藤は外国籍選手とのコミュニケーション能力に長け、オープンな性格で仲間を引き寄せるリーダーの資質も備えている。
「ここ(滋賀)に来てもチームをまとめるという役割は変わりません。ショーンHCがどういう展開でバスケットをするのかというのを把握して、みんながプレーしやすくすることが仕事の1つだと思っています。今シーズンは30歳オーバーのベテランが多く入ったことで助けられることも多い。メンタル面でも引き締まっているし、すごくやりやすいですね」
最高のスタートダッシュを見せ1Qを21-6としながらも、川崎の反撃を止められず逆転負けを喫した第1戦の反省を「我慢すべきところは我慢して、40分間集中力を切らさないディフェンスを目指そう」という課題とし、「それをやり抜いたことが今日の勝利につながったと思います。ビッグクラブの川崎さんに勝てたのはもうシンプルにうれしいです」。
敗れた川崎の北卓也HCは今季の滋賀について「高橋耕陽くんのような若手が育ってきているのもありますが、ベテランが多くなったことで(ゲームの)コントロール力が増した印象がある」と述べている。その先頭を切るのが伊藤であり、二ノ宮であり、さらには荒尾、鹿野洵生といった経験豊富な選手たちだ。インタビュー中も笑顔が絶えなかった伊藤の表情が引き締まる。
「自分の経験で得たものは若手に教え、チームに還元していきたい。ベテランとしてのプライドと責任を持って残り58試合を戦い抜くつもりです」
文・松原貴実 写真・安井麻実