今シーズンが開幕する直前、サンロッカーズ渋谷の広瀬健太に話を聞く機会があった。新ヘッドコーチに勝久ジェフリー氏が就任し、長谷川智也、山内盛久、菊池真人、さらにはジョシュ・ハレルソン、ブランデン・ドーソンという新メンバーを迎えたチームについて「練習の雰囲気も良く、間違いなく昨シーズンより戦える力を付けている」と、言い切った力強い言葉が印象的だった。
「今年は中地区から強豪揃いの東地区に移って、最初はマジかよ!と思いましたが、考えてみたらその中で勝ち抜かないと優勝はないわけで、激戦区で揉まれることでレベルアップできるはず。そういう意味ではやりがいのあるシーズンだと感じています」
広瀬のその言葉を裏付けるように10月末から12月にかけて10連勝を達成。川崎ブレイブサンダース、千葉ジェッツにも競り勝ったコートには確かに『昨シーズンより戦える力を付けた』サンロッカーズの姿があった。この時点でポイントガードの伊藤駿を負傷で欠く状況だったが、その後、広瀬が左手小指骨折(全治2ヶ月)、清水太志郎が左足アキレス腱断裂(全治6ヶ月)、長谷川智也が左足靭帯損傷(全治1ヶ月)とケガ人が続出、チームは5対5の練習もままならない状況に陥るが、それでも個々のモチベーションを落とすことなく勝率6割をキープしたのは立派だったと言えるだろう。
しかし、年が明けた1月の京都ハンナリーズ戦では伊藤、長谷川がコートに戻ってきたにも関わらず2連敗を喫し、広瀬が復帰した2月9日のレバンガ北海道戦では持ち味であるチームディフェンスを発揮できないまま64-90の大差で敗れた。さらに2月16日、17日の琉球ゴールデンキングス戦も2連敗。東地区では川崎ブレイブサンダースに3ゲーム差を付けられ4位、その後ろには僅か1ゲーム差で栃木ブレックスが迫っているという状況だ。だが、「ここからが勝負」という広瀬の顔に暗さはない。「全員が自分のやるべきことはわかっているはずです。あとはそれをどれだけ遂行していけるかだけ。僕はこのチームにはそれができる力があると思っています」
広瀬が戦線離脱した期間は約2ヶ月。焦りはなかったが「こんなに長い時間バスケットから離れたことはなかったので、ちゃんと(コートに)戻れるかなという不安はありました」と言う。だが、「メンバーは自分が抜けた穴を埋めつつ、しっかりアイデンティティを持ってプレーしていたので、やきもきするようなことは全くなかったです。みんなよく戦ってくれてるなあ。1日も早くあの場所に帰れるよう、とにかく治療に専念しようとそんな気持ちでしたね」
コートの外から見ていたチームは「限られたメンバーしか出られないので、1人ひとりの責任というか、自分がやるべきことが明確になって、それが思いっきりのいいプレーにつながっているように感じました」。もちろん少ない人数で戦う上で体力の消耗は否めなかったが、それでもネガティブな要素はなかった。「ケガ人だらけのチームをみんなでよくつないでくれたなあと、そこは本当に感謝しています」
アキレス腱断裂で今シーズン絶望となった清水の穴は大きいが、自分を含め3人の主力が戦線復帰したことは必ず今後の戦いのプラス材料になるはずだとも思う。いや、必ずプラスにしなければならない。
「人数が少ないときは、どんな状況でもとにかく出続けなくてはならないので、逆にそれでリズムがつかめるような面もあったと思います。そこに復帰した僕らが入ったことで、またちょっと(リズムが)変わったというか、それはこれからチームとして修正して、また築いていかなければならない部分ですね。けど、僕はそれほど心配はしていません」
琉球との2連戦を終えた後、勝久ヘッドコーチもまた「同じ敗戦でも、内容は今日の方がよかった。昨日よりエネルギッシュにプレーできていたと思います」とコメントし、「まだいいときと悪いときの波があり、それをいかに安定させるか、課題はいくつもありますが、少なくとも気持ちの部分だとか、ハードにプレーすることに関しては今日は昨日より確かに1歩前進していました。ようやくケガ人も戻って来た中で、ここからまたさらに1歩、2歩と前に進んで行きたいと思っています」と、結んだ。
広瀬によると「今シーズンはコーチングスタッフ、フロント陣を含め全員が自分たちの文化を表現できるチームを作ろうという目標を掲げてスタートした」と言う。「つまりはサンロッカーズというチームの色をしっかり出せるようにしようということです。試合はもちろんですが、練習でも2年目の(ロバート)サクレを筆頭に、ハレルソンやドーソンも渋谷のまじめなカラーを出してくれています。そこに新人の杉浦(佑成)、阿部(諒)が加わり、ケガ人が復帰した今はその分切磋琢磨できるので、自分たちが目指す渋谷カラーをより色濃く出していきたいですね」
今回の渋谷がそうであったように長いリーグ戦の間には選手のケガなどにより戦術の変更を余儀なくされることもある。が、チームとして目指すもの、その根幹がブレていなければ、どんな”変化”の中でもまた新たなステップを踏むことはできる。
「肝心なのはそれぞれが自分の良さ、持ち味を全力で出し切れるかどうか。それは全員がわかっていることなので、あとは一丸となって戦うのみです」
タフな試合が続く後半戦を戦い抜き、ここからどこまで上っていけるか、チームを牽引するのは自分が武器とする『あきらめないプレー』であることは十分承知している。
文・松原貴実 写真・安井麻実