先輩風を吹かそうとしたライターの行方は……
ライターは誰にでもなれる。
自分がそうだと名乗り、名刺に「○○ライター」とでも刷れば、その瞬間からライターの仲間入りだ。刷らなくてもいい。とにかく、ライターに「なる」ことは誰にだってできる。
しかし、仕事をいただくとなると別だ。
ごくたまに「この文章に目を通してもらえますか?」という依頼が来る。
読んでみると、いろいろ思うところはある。
むろん文章を書こうという意志のある人たちだから、一定のラインはクリアしている。
その人の好みの文章(書き方、文体)があって、その一切を否定するなんて野暮なこともしない。
それでもわずかばかりの経験を糧に「こうしたほうがいいんじゃない?」などと言ってみたりする。少しでも多くの読者にわかりやすく読んでもらいたいからだ。
そんな小生が唯一持てる先輩風を一瞬にして吹き飛ばしたのが石崎巧だった。
なんだ、この文才は!
しかも、いろんな書き方を持ち合わせている。視点も豊富だ。
嫉妬した。
俺も、こんなふうに書いてみたい。
この2年間、何度そう思ったことか。
しかも、彼にはバスケットの才能もある。身長は小生と変わらないのに、小生がずっと憧れてきたポイントガードでプロチームを動かしている。
羨ましさしかない。
もちろん努力もしたんだろうけど、たぶん彼はその努力を努力と思わない才能に恵まれたんだと思う。
そんな大先生がバスケットの世界から足を洗うらしい。
本格的にこっちの世界に飛び込む気だな。そう思っていたら、そうではないという。
それはそれでもったいない。
すると、いや、書き続けますよ。しかも、仕事の合間に小説も書いてみようと思っています、なんて言い出す始末。
スピリッツで味を占めたな。
でも、それでいい。それがいい。
彼のような文章を書くことが好きで、そのためかどうかはわからないけど、いろんなところにアンテナを張っている人の文章はおもしろい。惹かれる。
プロバスケットの現場から去っても、新しいフィールドで、新しい何かを見つけ、それを思いも寄らぬ筆致で著してくれるだろう。
ライターは誰でもなれる。今日からなれる。
でも石崎巧のようなライターにはそう簡単になれるものじゃない。
「スピリッツWEBコラム大賞」だって、簡単に獲れるものじゃない。もう何年も書いているのに、一度もノミネートされてない小生が言うのだから間違いない。
それがまさかの2年連続受賞だって。
もう別次元の大先生だよ。先輩風を吹かそうとした自分が恥ずかしいよ。
おめでとう!
文 三上太