緊急事態宣言が発令されてから6日後の4月13日。全国的、いや世界的に『STAY HOME』な自粛生活を強いられる中、オンライン会議にて今シーズンのスピリッツアウォード選考会を実施。新型コロナウイルスの影響を受け、無観客試合で再開したばかりのBリーグは3月15日を最後に、シーズン中止という苦渋の決断に至る。
今シーズンのMVP選出は自粛すべきか?──という話題から選考会ははじまった。「バスケを話題にするきっかけになれば良い」「こんなご時世だからこそMVPを決めよう」など前向きな意見が飛び交う。先に地区別ベスト5を選出し、それ以外に有望な選手がいればMVPとして表彰しようではないかという結論に落ち着く。ベスト5は東・中・西の各地区を代表する15人が名を連ねた。ひと呼吸おき、「他にMVP候補選手はいるか?」という議題に入ると、一人がその名を挙げた。選考委員から異論はなく、満場一致で即決した。今シーズンのMVPは川崎ブレイブサンダースの篠山竜青だ。
昨年12月29日の滋賀レイクスターズ戦で左肘関節脱臼を負った篠山は、40試合中27試合の出場に留まる。それゆえに、中地区ベスト5のノミネートからは外れた。それでも篠山をMVPに推したのは、Bリーグに意識改革をもたらせた功績が大きい。ケガをした試合も、アグレッシブにゴールへ向かっていった中で起きたアクシデントだった。
昨夏のワールドカップにおいて、史上最強と呼ばれた日本代表だったが1勝もできず、悔しい結果に終わった。キャプテンの篠山は「体のぶつけ方、自分からぶつける、どういうタイミングでぶつける、ぶつけた後にどのくらい動けるか、そういう部分だと思う」とフィジカルの差だけで片付けることなく、その使い方に課題を見出す。「Bリーグからどう底上げするかが大事になる」と日本人選手たちに対して、マインドセットを図った。
エンターテインメントに特化し、着飾ってスタートしたBリーグ。4年目を迎えた今シーズンは、開幕時から大きなビハインドがあった。ワールドカップを通じて、多くの人たちが世界レベルを目の当たりにし、本来持つバスケの魅力に気付かされたはずだ。もうひとつ、90年代初頭に起きたときよりも大きなNBAブームが再来。今回は日本人選手が2人もおり、一層バスケへの関心は海の向こうへ比重が傾いていった。
実際、Bリーグ開幕当初は物足りなさを感じ、現場に行けば同様の意見も囁かれていた。しかし、篠山が口火を切ったフィジカルの課題克服へ向けた取り組みが、少しずつリーグ全体に浸透していく。プロを目指す学生たちにも伝播し、男子日本バスケ界全体として世界レベルへ近づくための大きな一歩を踏み出すきっかけとなった。ワールドカップに出場できていなければ、Bリーグは後退していたかもしれない。プロとしての本質であるバスケ改革に着手し、危機を救った篠山こそ、未曽有の事態でシーズンが終わってしまった2019-2020シーズンのMVPに相応しい。
オリンピックは1年後へ延期となった。発展途上の日本代表にとっては、1年の猶予期間ができたことは前向きに捉えられる。篠山も最後の試合となった3月15日に復帰したばかりであり、万全な状態で臨むためにも時間が必要だろう。来シーズンのBリーグを通じてさらに激しくぶつかり合い、世界基準へと引き上げるためにも有意義な1年間を過ごして欲しい。1日も早く準備をはじめるためにも、緊急事態となった現状の早期収束を祈るばかりである。
【篠山竜青選手よりコメント】
「怪我でプレーができない状況が長く続いた中で、このようにMVPに選んでいただいたこと、大変恐縮でこざいます。来シーズンは、バスケットボールスピリッツさんが篠山をMVPに選出したことが間違いではなかったと証明できるよう、1シーズン戦い切り、優勝します。バスケットボールスピリッツさん、選出本当にありがとうございました。これからも仲良くしてくださいね。」
文・写真 泉誠一