昨シーズンも筆者はWリーグMVP部門の執筆を担当したのだが、BBS AWARD 選考会議に臨むにあたっては、今シーズンもMVPに誰を推挙するかを悩んだ。レギュラーシーズン1位から4位までのチームがたった1ゲーム差の中に入る大混戦の結果であり、MVPに選ばれるべき選手が山ほどいたからだ……と、ここまで書いたところで、1年前も同じことを書いた気がして読み返してみたら、しっかり書いてあった。少し前までENEOS一強だったWリーグの勢力図が変わってきた証拠だ。筆者の発想がワンパターンなだけだと言われれば否定できないが、今は筆者の物書きとしての能力を問題にしている場合ではない。
考えてみれば、筆者がWリーグの選手個々のキャラを知ることができたのは、オールスターが復活したことが大きい。馬瓜エブリンのキャラの一端を垣間見たのも、アオーレ長岡での復活第1回のオールスターだった。そして、エブリン自身が天賦の才を解放させていったのは、そのオールスターがきっかけだったのではないかと勝手に思っている。
その後Wリーグの発信力も高まっていった中、日本代表にまで上り詰めたエブリンの存在は、TV出演などで急速に世に知れ渡ることになる。バスケットにあまり詳しくなくても「エブリンなら知ってる」という人は多い。男子に置き換えれば田臥勇太か五十嵐圭、最近でいえば渡邊雄太か八村塁。エブリンがそういう存在であることは、今更言うまでもない。
トヨタ自動車時代の2020-21シーズンにもBBS AWARD MVPに選ばれているが、メディア露出など諸々をひっくるめた日本バスケット界全体への貢献度が一際高く、ある意味もう何年も前から日本バスケット界のトップに君臨していることを考えると、もう1回くらい称えておかないと割に合わない。デンソーに初タイトルをもたらしたこと、「人生の夏休み」明けだったことも併せ、今このタイミングで贈らずしていつ贈るのか(いや、今後もチャンスは何度もあると思うが)……というのが、筆者がエブリンをMVPに推挙した理由である。
もっとも、これらの理由はいずれもWリーグとは直接的には関係のないことではあるが、そもそもリーグ本家のAWARD投票においても、個々のバックグラウンドやチームの順位など様々な要素を大なり小なり考慮した上で投票しているというのは、決して筆者だけではない(と思いたい)。それならこの際、競技面云々を重視せず、「人間・馬瓜エブリン」を表彰したっていいじゃないか。いずれにせよ、再びメダリストとなってパリから帰ってくるのか、デンソーでもリーグ優勝したらキッチンカーを出すのか、大食い番組やトーク番組(徹〇の部屋とか)への出演はあるのか、洗濯用ネットの次は何を販売するのか、コート内外で遂行力の高いエブリンの今後の活動には当然期待しかない。
最後に、2022-23シーズンのBBS AWARD MVP・Wリーグ部門が馬瓜ステファニーであったことも付け加えておきたい。姉妹で2シーズン連続MVPを受賞し、オリンピックにはともに2大会連続で出場する(しかも今回はチームメート)。日本代表になるために日本国籍を取得した、十数年前の馬瓜家の英断こそがMVPに値する。
文 吉川哲彦
写真 W LEAGUE
「Basketball Spirits AWARD(BBS AWARD)」は、対象シーズンのバスケットボールシーンを振り返り、バスケットボールスピリッツ編集部とライター陣がまったくの私見と独断、その場のノリと勢いで選出し、表彰しています。選出に当たっては「受賞者が他部門と被らない」ことがルール。できるだけたくさんの選手を表彰してあげたいからなのですが、まあガチガチの賞ではないので肩の力を抜いて「今年、この選手は輝いてたよね」くらいの気持ちで見守ってください。
※選手・関係者の所属は2023-24シーズンに準ずる。