確かにジェッツは東地区を制した。アルティーリもB2に昇格した。岩手ビッグブルズを象徴する存在だった慎也の現役引退も、今シーズンの大きなトピックの1つだ。しかし、今シーズン最もインパクトを残した「千葉」を挙げろと言われれば、筆者はシャンソン化粧品の選手を推す。主観丸出しとお叱りを受けるのを覚悟の上で、ベストトランスファーのタイトルとともに “千葉オブザイヤー” を千葉歩に進呈したい。
千葉歩といえば、Wリーグキャリアの出発点は新潟アルビレックスBBラビッツ。高校時代の3年間を過ごした土地に凱旋した格好だ。絶対的エースだった出岐奏の引退前後から低迷が続くチームにあって、千葉は主力の1人として3シーズンを送る。そこからシャンソンに移籍したのは、もちろんその実力が認められてのこと。昨シーズンの1試合平均14.6得点(リーグ9位)という数字が、得点源として十分に立派なものであることは論を待たない。
ただ、ファン・ブースターの中にはもしかすると、新潟よりも選手層の厚いシャンソンではたして出場時間を確保できるのかどうかと疑心暗鬼だった人もいたかもしれない。何せ、同じウィングポジションには既に主力を張っていた水野妃奈乃に加え、𠮷田舞衣という新人王有力候補もいた。実際に、開幕当初はこの2人がスターターに名を連ね、千葉は出場時間も決して多いとは言えなかった。
風向きが変わったのは11月。水野が大ケガで戦列を離れ、出場時間とともにスタッツも伸ばし始めると、年明け以降は全試合でスターターを務めるまでになった。そして、プレーオフクォーターファイナルでは14得点3スティールの活躍を披露し、レギュラーシーズン3位通過のデンソーを撃破する立役者に。新潟を引っ張った実力が伊達ではないことを証明したばかりか、上位争いからしばし遠ざかっていた古豪シャンソンの再浮上にも貢献したことは間違いない。何なら、シャンソンは千葉に救われたと言っても差し支えないくらいだ。
Bリーグに比べて移籍が少なかったかつての状況を考えると、戦力のシャッフルでWリーグの活性化が進んでいることは喜ばしい限り。今シーズン移籍した選手の中では、宮澤夕貴や中村優花(ともに富士通)、川井麻衣や宮下希保(ともにトヨタ自動車)らが注目された。ただ、実績十分の彼女たちが新天地でも活躍する姿は、多くの人が容易に想像できることでもあったはずだ。その意味で、千葉がファン・ブースターの勝手な不安(そんなものがあったとすればの話だが)を吹き飛ばしたことには価値がある。
水野のアクシデントは不運以外の何物でもないが、思いがけず訪れたチャンスをものにしてみせたのはそれまでに準備を怠らなかった証拠。新潟時代も含め、常に上を目指してきた姿勢が結実したことは、飛躍を誓う他の選手や、ともすればファンをも勇気づけるのではないか。北村悠貴が加わり、水野の復帰も見込まれる来シーズンはポジション争いがさらに激化するが、その中でも千葉はシャンソンをもう一つ上のステージに押し上げる原動力になるものと期待している。
文 吉川哲彦
写真 W LEAGUE
「Basketball Spirits AWARD(BBS AWARD)」は、対象シーズンのバスケットボールシーンを振り返り、バスケットボールスピリッツ編集部とライター陣がまったくの私見と独断、その場のノリと勢いで選出し、表彰しています。選出に当たっては「受賞者が他部門と被らない」ことがルール。できるだけたくさんの選手を表彰してあげたいからなのですが、まあガチガチの賞ではないので肩の力を抜いて「今年、この選手は輝いてたよね」くらいの気持ちで見守ってください。