(中編)新天地でのリスタート より続く
「きついけど、楽しいです!」
オータムカップでの大沼美琴は、チームメイトをサポートする側に回っていた。
まだプレーできる状態ではなかったからだ。
昔から得点よりもリバウンドやルーズボールをひたむきに頑張る大沼だから、献身的にサポートする姿は、けっして驚くことではない。
だが、そんな大沼が、シャンソン化粧品シャンソンVマジックではむしろ積極的に若いチームメイトたちを鼓舞している。これまでにはあまり見られなかった変化である。
「シャンソン化粧品の子たちは、調子がいいときは超元気。みんながワーッとなる。でもダメなときに表情から沈んでいってしまう。ベンチにいてそれを一番感じたんです。だからなるべく私と(藤岡)麻菜美で盛り上げて、みんなが落ち込まないように『大丈夫だよ』って言い聞かせたり、練習中も『ここだよ』とか、『今、しっかりボックスアウトをしなきゃダメなときだよ』って言えるようになりました。移籍してすぐの頃は、ケガをしていたこともあったので、様子を見ながら、言えるところと言えないところがあったんですけど、今は『ここが頑張るところだよ』といったことを少しずつ伝えるようにしています」
どちらかといえば「おとなしい」部類に入る大沼が、チームで最年長ということもあるが、言葉でチームをリードする。
そこには自分への悔恨もある。
「若かったときの自分もそういうネガティブなタイプ……ひとつミスをしたら『あぁ』って沈むタイプで、けっしてよくなかったんです。今の若い子たちを見ていると、昔の自分を見ているような気がして、だから『そうじゃないんだよ』って伝えたいのかもしれません。今は『ナイス、ナイス。OK、OK』なんて言っちゃったりして」
そう言って「ウフフフ」と笑う大沼は、どこか今の自分を楽しんでいるようでもある。
オータムカップの前あたりから少しずつ対人練習に加わり、同カップを終えてからは本格的に5対5の練習にも参加している。9月中旬におこなわれた練習試合では、プレータイムこそ限られたものの、実戦にも復帰している。開幕戦にも間に合う予定だ。
ENEOS時代は渡嘉敷来夢という絶対的なビッグマンがいた。そのためボールを受けたら、まずはペイントエリア内を覗いて、ポジションを取れていれば彼女にパスを出す。彼女がディフェンスに囲まれて、ボールが戻ってきたらシュートを打つ。ハーフコートではそれを基軸に戦ってきた。
しかしシャンソン化粧品は違う。渡嘉敷はいない。セットプレーにもさまざまなオプションがあり、考えて動かなければチームメイトとぶつかるなど、動きの邪魔をしてしまうこともある。