あの男が帰ってきた。
“ミスター・ヴォルターズ”、小林慎太郎である。
昨シーズンのB2が開幕して1か月も経たないうちに左ヒザの前十字靭帯を断裂。シーズン中の復帰は絶望視されていたが、4月に行われたプレーオフで電撃復帰すると、約2分のプレータイムで3ポイントシュートも沈めて、会場のヴォルテージを一気に引き上げた。
その小林が2019-2020シーズンは開幕からしっかりとコートに立っている。
「実質、復帰するのは今シーズンからですし、自分自身もまだ6~7割くらいの感覚です。ケガをしてからまだ11カ月くらいしか経っていないので、思うようには動けていません。でもそれほど簡単に戻ってくるものではないとわかっていますから、焦らず、年末から年始にかけて調子が戻ってくればいいなと。それくらいちょっと余裕を持ってプレーをしています」
穏やかな表情で小林は現状をそう語る。
東海大学を卒業後、パナソニック・トライアンズに入団した小林だったが、2012-2013シーズンを最後に同チームが廃部となり、それと時を合わせるように故郷に立ち上がった熊本ヴォルターズに移籍をした。以来、昨シーズンまでの6シーズン、連続してキャプテンを務めている。
今シーズンはキャプテンを置かないことになったが、小林は「誰がキャプテンをしても、誰かがしっかりとリーダーシップを取っていかなければいけません。キャプテンだろうが、キャプテンじゃなかろうが、やるべきことは変わらない」と若い選手たちを引っ張っている。
小林を取材する前日、秋田ノーザンハピネッツの古川孝敏を取材し、そこに居合わせた秋田銀行女子バスケットボール部のヘッドコーチ、小滝道仁に彼のことを尋ねた。彼らはともに小林の大学時代の後輩であり、小林のことはよく知っている。すると2人は「熱い人です」口をそろえた。
しかし取材当日の練習を見る限り、小林がチームメイトに熱さをぶつけるシーンは見られない。
「ときと場合によるんです。試合になると結構ガンガン行くんですけど、練習では比較的みんなのやりたいことをやってもらって、そのなかで一番いい方法を選択していくほうがいいのかなと思っています。引っ張っていく形はいろいろあって、僕も6年間このチームでキャプテンをしてきて、いろんな方法を試しましたけど、みんなにのびのびとやってもらったなかで最善の方法を見つけていくことが一番いいのかなと行きついたので、最近はそういうやり方をするようにしています」