テーブスHCを敵に回す怖さは、誰よりも日下HCが感じていたに違いない。日下HCはテーブスHCのフィロソフィーやバスケットスタイルを熟知しているが、逆もまた然り。テーブスHCにしてみれば、富士通の選手のこともよく知っている分、相手がどのような戦術を繰り出してくるかということはある程度読めるはずだ。翻って日下HCはというと、相手に全て見透かされているのではないかと思ってもおかしくないところだが、そこで日下HCは相手のことを考えるのではなく、自分たちのスタイルやシステムにフォーカスした。

「7年間一緒にやってきて、僕もいろいろ提案したこともありますし、お互いに手の内はわかってる状況だったと思うので、逆にそこを隠してもしょうがないなと思ってました。まずはオフェンスよりもディフェンスの部分を強調したというのは、その一つのポイントでした」
自チームにベクトルを向けたのは、チーム状況によるところもあった。第3週まで五分の星で推移した現状を打破すべく、第4週はGAME1に集中。テーブスHCに対する感情に左右されることなく、自チームの今後を最優先に見据え、この日の試合に一戦必勝で立ち向かっていったというのが、日下HCの率直な思いだ。
「BTがいる、いないではなく、チームとして同一カード連勝ができていなかったので、まず土曜日のゲームを勝ちきろうというのがありました。たまたま今日はBTもHCになって1試合目だったんですけど、自分たちにとってはこれが良いきっかけになる、波に乗っていけるようなゲームになったんじゃないかなと信じて、ここから臨んでいきたいと思います」
日下HCは、bjリーグ初年度の記念すべきドラフト一巡目指名選手の1人であり、bjリーグの11シーズンを全うした数少ない1人でもある。Bリーグでもプレーした後に引退し、すぐに富士通でコーチングキャリアをスタートしているが、今シーズンのHC就任により、bjリーグでのプレー歴を持つ人物がWリーグで指揮を執る貴重な例となった。町田瑠唯や宮澤夕貴、林咲希といった日本代表での実績を持つ選手を擁し、その後に続く選手も台頭しようとしているチームを率いることは、日下HCにとってこの上ない経験だ。

「まさか女子のHCとして指揮を執るとは思っていなくて、bjで選手だったときに思い描いていたこととは違うんですけど、それもご縁とタイミングだと思っているので、そのご縁を大切に、富士通レッドウェーブというチームをまた一段階強くできるようにサポートしていきたいと思います。こういう場でHCができるというのは一握りの人にしか与えられないチャンスだと思うので、この経験で日本の女子バスケットのステップアップに少しでも貢献できればと思っています」
富士通はアイシンとのGAME2も制すると、第5週は東京羽田ヴィッキーズを下して4連勝となった。現在7勝3敗で、順位はトヨタ自動車とデンソーに続く3位。第6週は1敗で首位を走るトヨタ自動車との直接対決であり、ここで連勝すれば首位浮上の可能性がある。上向いてきた富士通を日下HCはどう導くのか、ここからが面白い。
文・写真 吉川哲彦











