昨シーズンのWリーグはENEOSが女王の座に返り咲いたが、その前の2シーズンはトヨタ自動車が連覇。頂点に導いたルーカス・モンデーロヘッドコーチはその連覇を置き土産に退任し、この1年間は日本で過ごしながら時折Wリーグの試合会場にも足を運んでいた。そして、満を持してトヨタ紡織サンシャインラビッツのHCに就任。7月15日からの3日間開催されたサマーキャンプが、新天地でのお披露目となった。
かつてスペイン女子代表も率いたモンデーロHCがトヨタ紡織をどのように導くのかという点は当然ながら注目されるところだが、その上でかなり重要な役割を担うことになりそうなのが河村美幸だ。トヨタ自動車時代にモンデーロHCの下で連覇を味わった河村は、その経験を携えて昨シーズントヨタ紡織に移籍。「自分が経験値を伝えながら貢献して、より良い成績を残そうと思った」とのことだが、結果としては逆に順位を下げてしまったことを「悔いが残るシーズンだった」と河村は振り返る。
「経験値を伝える」という点では、モンデーロHCが就任した今シーズンは、河村の存在がチーム内でさらに大きな意味を持ってくることになるだろう。モンデーロHCのコーチングフィロソフィーやチームビルディングを知る河村の目には、新たなスタートを切った今のトヨタ紡織がどのように映っているのだろうか。トヨタ自動車でタッグを組んだ1シーズン目と、再び共闘することとなった今を比較し、河村はこう語る。
「トヨタのときも1年目はうまくコミュニケーションが取れないというのがあって、かみ合わない部分が大変だったのを思い出しました。今もうまくいかないことのほうが多いし、試合になると尚更指示が複雑になって、タイムアウトでもいっぱい情報量を与えられるので、選手たちも戸惑うところがあります。そういう意味では、今の完成度はまだ半分にもいってないですね。一応自分はセットオフェンスとかディフェンスのポイントはなんとなくわかるので、それを短い時間でなるべくかみ砕きながらパパっと言えるようにやっているところです」
実際、サマーキャンプでもタイムアウトになるとモンデーロHCの説明が長くなってしまい、選手がコートに戻るのに時間がかかっていた。通訳を介さなければならないというのも長くなる一因だと思うが、これをいかに短くできるか、つまり簡単な指示で選手がHCの意図を理解できるようになるかどうかが、この先問われることになるだろう。
そのためには、日頃の練習やミーティングでモンデーロHCの戦略・戦術をチーム全体に浸透させなければならない。モンデーロHCは練習が厳しいとも言われているが、その点でも慣れている河村は「ここからが本番」と思っている。
「自分はルーカスの練習を久々だなって感じながらやってますけど、みんなは慣れてないんで、ハアハア言いながらやってます(笑)。でも、マックスで強度が高いときの彼の練習も知ってるし、彼自身も『サマーキャンプが終わったら練習の強度をもう一段階上げるよ』って言ってて、『まぁそうだよね』って(笑)。今の練習は入りたてで、まだ慣れきってないから強度も上げてないけど、本当はもっとキツいんで(笑)」
前述の通り、モンデーロHCは充電中の1年間も日本に滞在。自身のSNSでは古巣のトヨタ自動車だけでなく、当時在籍した選手について触れる様子も見られたが、河村もやはりモンデーロHCが気にかける存在の1人だったようだ。そのことをふまえ、河村は “ルーカス・スタイル” をチームに浸透させるという責任感を強く持つ。