馬瓜ステファニーも「4回までファウルを使えるから」と声をかけ、ともに大きな相手に立ち向かっていた。「ファウルになっても良いから相手と戦うんだ、という気持ちがすごく見えていました。これまではミスマッチになったらファウルをしてしまっていたところもガマンできるようになり、2人ともすごく成長しました。彼女たちにセンターを任せられるおかげで、自分の仕事を全うできるので2人には本当に感謝しています」。その2人がファウルアウトしたあと、馬瓜にマッチアップする番が回ってきた。渡嘉敷が「年下には負けられない」と士気を高めるのと同じく、馬瓜もリスペクトを込めて「正直負ける気はしなかったです」。気持ちと気持ちのぶつかり合いが見られたからこそ、時代に逆行するオールドスクールなインサイドの攻防に心を揺さぶられた。
これまでの渡嘉敷は体格差で圧倒でき、国内での戦いに物足りなさも感じていた。対等なサイズの戦いを求めてWNBAのコートにも立った。今、ソハナら留学生ビッグマンが上位チームには標準装備され、190cm前後の選手たちが台頭しはじめている。今オフにはインサイドの技術向上とともに、トレンドを取り入れてアウトサイドへ広げながら、『打倒!渡嘉敷』に取り組んでもらいたい。それがWリーグを、渡嘉敷自身をもっともっと楽しくさせることだろう。
ファイナルを戦い終えたあと、両チーム揃って笑顔で記念撮影が行われた。ひと回り年の離れた桜花学園の後輩であるトヨタ自動車のルーキー、横山智奈美と仲睦まじく談笑する姿があった。プレーオフ中の記者会見では時折、自虐的に年齢のことに触れていたが、分け隔てなく振る舞う渡嘉敷の人間性もまた魅力である。
チームメイトの星杏璃は「タクさん(※渡嘉敷のコートネーム)は、練習が少しきつくなると『きつい』って言うけど一番がんばっています…あれ?なんか上から目線になっちゃったけど、違うんです。そういう姿を見て、タクさんにメチャメチャついていこうって思うんですよ。タクさんを信じていれば、なんか勝てる気がずっとしてました」と支えられていた。
トヨタ自動車から移籍してきた長岡は、「トヨタが2連覇したことで相当悔しい思いをしていました。その悔しさを後輩たちに伝えなければといけないと、最初のミーティングで泣きながら話していました。試合や練習中もそうですけど、人一倍声を出し、本当に強い気持ちを感じていました。たくさん苦しい思いをしてきたタクさんを優勝させられて本当に良かったなと思います」と絶対的な存在を最大限に活かすことを常に考えてプレーし続けた1年だった。多くの選手から慕われ、そして目標とされる渡嘉敷が、8年ぶり3回目のファイナルMVPに輝いた。
渡嘉敷が好きな桃が旬を迎える6月、32回目の誕生日が待っている。プレーオフの平均出場時間は40.8分。通常の試合時間を越えてコートに立ち続け、まったく衰えていない姿を自ら証明してみせた。今後も渡嘉敷を中心に、Wリーグの熱き戦いが続いて行く。
文・写真 泉誠一