「絶対に行ける。ガード陣がディフェンスでずっとプレッシャーかけてくれていたので」林咲希
後のないENEOSは前日の後半に巻き返した勢いそのままに、素晴らしい立ち上がりで得点を重ねて行った。佐久本ヘッドコーチは「言い方は正しくないかもしれないが、ファウルをしてでも良いから喰らいついて行くディフェンスをして、気持ちを出して守ろう」と発破をかける。長岡萌映子が第1クォーターから3ポイントシュート2本を含む10点を挙げ、20-10とENEOSが二桁点差を開く。しかし、トヨタ自動車はこの日も慌てることなくディフェンスから立て直し、37-36と逆転して前半を折り返した。第3クォーター、ENEOSは林が待望の3ポイントシュートを決め、高田静も続いてふたたび流れを呼び込む。しかし、トヨタ自動車はシラ ソハナ ファトー ジャの高さで対抗する。51-51の同点、勝利の行方が全く分からないまま最終クォーターを迎えた。
「絶対に行ける。ガード陣がディフェンスでずっとプレッシャーかけてくれていたので、そのチャンスをうかがってプレーしていました」という林は相手の隙を狙い、スティールから速攻を決める。本来の姿を取り戻したENEOSが74-65で勝利。佐久本ヘッドコーチは、「出だしからディフェンスをがんばって走るバスケットをし、インサイドとアウトサイドで流れを作っていくのがうちのバスケットでもある。今日はしっかり戦ってくれた」と述べるとともに、1勝1敗のタイに追いついたことに安堵する。
負けられないプレーオフや優勝決定戦は国内外を見ても、2ゴール差が重くのし掛かる。初戦の第4クォーターでは無得点が続くトヨタ自動車に対し、ENEOSが6点差まで詰めたが、逆転を許さずに逃げ切った。逆に第2戦の終盤、トヨタ自動車が4点差に迫ったがやっぱり逆転できずに敗れている。その状況について、大神ヘッドコーチの見解を伺った。
「1回のポゼッションに対してショットミスなのか、またはファールなのか、ターンオーバーなのかを考えなければなりません。その1ポゼッションで2点を獲ることよりも、そこで決めることで相手にとってマイナス4点、またはマイナス6点のイメージをしっかり持った方が良い。そうなれば、もう1ポゼッションでは返せなくなる。そのイメージを大切にしたい」
コーチ陣が短時間で相手の弱点を見極め、選手たちが対応しながら精度高く遂行できるかどうかが勝負の決め手となる。一発勝負では味わえない総力戦が、プレーオフの醍醐味だ。
今シーズンを通してコツコツと積み上げた成果をぶつける最終戦
第2戦で敗れたトヨタ自動車だが、悲壮感はまったくない。試合後に行われたレギュラーシーズン・アウォードセレモニーでも、記者会見でも、持ち前の明るさが戻っており、すでに気持ちを切り替えていた。「やっぱり悔しいのが一番強いですが、3戦目までできる、このチームで最後まで戦えることをポジティブに考えています。もうやるしかないし、楽しみたい」と馬瓜ステファニーらしいコメントを残す。山本麻衣も「自分たちのバスケットをやれば大丈夫っていう確信もあるので、それをしっかり体現できるように、ENEOSにしっかり向かっていけるように準備したいです」と自信をのぞかせていた。試合の中で選手たち自身がさまざまな困難を解決し、それが経験値となり、一夜明ければレベルアップした姿を見せている。
逆王手をかけたENEOSの渡嘉敷は、「逆転優勝したらメチャクチャかっこよくないですか?」と目を輝かせた。「本当に最後に勝てばいい。それこそクォーターファイナルのときも『ここから全部勝てばいい』と言ったのと一緒で、昨日も負けた後すぐに『ここから2つ勝てばいい』と言いました。はい、明日はやるだけですし、この1年間やってきたすべてをぶつけたい」と選手たちにとっても待ち遠しいファイナル最終戦。この試合に勝った方が、今シーズンのチャンピオンになる。
もしかすると、最終戦はワンサイドゲームになるかもしれない。しかしそれは、その試合だけの結果ではなく、これまでの2試合、今シーズンを通してコツコツと積み上げた成果である。優勝の行方を会場で、バスケットLIVEで、NHK-BS1で刮目せよ。
文・写真 泉誠一