しかし、その中で若原には苦い思いもある。富士通を1点差で撃破した試合を、若原はケガで欠場していたのである。昨シーズンまでのチームメートである水野菜穂(東京羽田)が古巣の戦いぶりを少しばかり羨んでいたのと同様に、若原も「めちゃくちゃ複雑です(笑)」と振り返る。
「そのときも悔しい気持ちのほうが大きくて……でもキャプテンが『ラン(若原)はこのチームに必要だから』って声をかけてくれたのがすごく嬉しくて、今シーズンはキャプテンのためにも、チームのためにも、プレーオフに行けるように自分がもっと頑張らないといけないなって思ってます」
水野の名前が出たところで改めて触れておくと、若原にとっては東京医療保健大の先輩にあたるということもあって、互いを意識し合う存在。東京羽田が新型コロナウイルスの療養期間明けだったことを受け、試合前の挨拶では相手の体力を気遣い、ケガのないようにと健闘を誓い合ったというが、いざ試合になると水野とマッチアップする時間帯が長く、体を張り合う場面も多々見られた。若原としても、長年の戦友である水野にチームの進化を直接示してみせたかったようだ。
「自分も楽しみにしてましたし、負けたくないという気持ちは一番ありました。コロナのこともあったので、まずは対戦できたのが本当に良かったなと思います。今クィーンビーズはこんなに強くなってるよというのを見せたかったというのもあるし、昨シーズンからメンバーも変わってるので、また違ったクィーンビーズになってるということも対戦しながら感じてくれたんじゃないかと思います」
チームの勝利を追求する姿勢は、山梨のようなクラブ型チームの場合は特に強くなる。地域に根付いたチームの一員として、若原もモチベーションは非常に高く、だからこそ、その強い責任感が涙に変わる。
「自分たちはクラブチームで、いろんな人たちの支えがあって大好きなバスケットができているので、ファンの方や企業の方への感謝の気持ちはすごくあります。そういう人たちと、勝って喜びを分かち合いたいという想いはすごく強いです。今日は自分がチームを勝たせたいという意識が強すぎて空回りしちゃったので(笑)、チームメートも自分も信じつつ、勝たせられるプレーヤーになれればと思います」
名門・桜花学園高で高校3冠を達成し、大学でもインカレ連覇を経験した若原は、今の山梨では勝利の経験を最も多く積み重ねてきた選手と言っていいだろう。昨シーズン、チームとして確かな成果を得た山梨にとって、今シーズンはプレーオフという未知の世界へ進むための大事なシーズン。その中で、若原のこれまでの経験と強い覚悟がチームに何をもたらすかという点は、山梨クィーンビーズの命運を大きく左右するに違いない。悔し涙ではなく歓喜の涙を流すことができるか、若原にとっても大事なシーズンはまだ折り返し地点にすぎない。
文・写真 吉川哲彦