慣れ親しんだ山梨への凱旋は来シーズン以降へ持ち越しとなるが、移籍1シーズン目の今は、古巣にはかつての仲間がまだ多く在籍している。彼女たちと敵味方に分かれて戦うことへの意識も強い水野にとって、今回こうして対戦したことは感慨深く、中でも大学の後輩でもある若原愛美と対峙したことは強い印象が残ったようだ。
「マッチアップの部分で、特に今日の試合は若原のところをしっかり守るようにオーさん(萩原HC)から託されて、そこはすごく燃えました。ずっと一緒にやってきた仲ですし、特に負けたくないって思いました。最後に勝負がかかってくるところでは若原で攻めてきますし、たぶん本人もそういう自覚を持ってプレーしているというのが伝わってきて、自分が山梨にいたときからそうでしたけど、どんどん強くなってるなと思いました」
その山梨は今シーズン、アランマーレ秋田との開幕戦で最大22点差をひっくり返し、開幕5連勝中だった富士通に土をつけ、東京羽田戦の前週にはWリーグ2連覇中のトヨタ自動車を相手に第4クォーター半ばまで接戦を繰り広げた試合もあった。「山梨の試合は気にしてて、バスケットLIVEでよく見てます(笑)」という水野は、山梨が結果を残し始めている事実に少しばかりの悔しさを抱き、発奮材料にしている。
「前から山梨にいるメンバーが活躍してるのは嬉しい気持ちもある反面、自分がいるときは勝てなかった富士通に自分がいなくなって勝ったというのは複雑ですけど(笑)、負けてられないとも思います。お互いに切磋琢磨していければいいなと思います」
山梨に限らず、今シーズンは秋田が日立ハイテクと三菱電機に勝ち、新潟アルビレックスBBラビッツはシャンソン化粧品を破り、姫路イーグレッツもあと一歩で勝てる試合があった。クラブ型チームの健闘が光る中、トヨタ紡織の連勝を止めた東京羽田にもポテンシャルは十分にあり、水野も良い感触を持っている。
「上位チームに食らいつけるゲームをしたいし、自分たちはできる。それがWリーグ全体の活性化につながると思うし、ヴィッキーズのファンの方にも喜んでもらえると思うので、そこはこれからも意識して頑張りたいです。センターがいない中での戦い方、特にリバウンドやディフェンスの強度の部分ははっきり見えてきているので、手応えは感じてます」
かつて東京羽田がプレーオフに進出した際の試合を見て「勇気をもらった」という水野は、「今回の移籍を価値のあるものにしたい」と常々語っている。その価値とは言うまでもなく、自身がまだ立ったことのないプレーオフの舞台に東京羽田の一員として進むこと。「『水野が来てくれて良かった』と言ってもらえるように」と、目標に向けて今日も全身全霊を傾ける。
文・写真 吉川哲彦