みんなを元気にし、チーム全体に良い影響を与える活躍を見せた星杏璃
「未来は、私たちがつくる。」今シーズンのWリーグが掲げたキャッチコピーである。2024年パリオリンピックへ向けた「すべての選手がヒロイン候補」であり、新たなスター誕生が期待される。先陣を切って開幕したトヨタ自動車アンテロープスvsENEOSサンフラワーズから、その予感がビンビンと伝わってきた。
先週行われた開幕会見において、キャプテンたちが各チームのイチオシ選手を挙げた。トヨタ自動車の馬瓜ステファニーは3年目の平下愛佳を推し、初戦から期待どおりの3ポイントシュートを決める。ENEOSの渡嘉敷来夢は、4年目の星杏璃の名を挙げた。
昨シーズンの星はプレーオフを含めた26試合中18試合の出場に留まり、平均プレータイムも10分余り。推しポイントとして渡嘉敷は、「気持ちの強さなんですよ」と強調。ケガ人が増えた昨シーズン終盤、平行してプレータイムもグンと増えたことにより、20点越えを連発する強気な得点力を披露。イチオシ選手として注目を浴びて臨んだ今シーズン開幕戦は、その期待に応えるようにいずれも2桁得点の活躍を見せた。当然、緊張はあった。しかし、初戦を落としたことでもう一度ENEOSらしいバスケに立ち返り、あとは「思いっきりプレーするだけ」と覚悟を決めて臨んだ2戦目は14点を挙げ、勝利に貢献する。
「チームとしてセットオフェンスから入るのではなく、どんどんトランジションで速いバスケで攻めて行こうと切り替えました。パスからではなくシュートを狙って、そこでディフェンスが寄ってきたらパスを考えるようにし、まずは自分のシュートを優先してプレーしようと思いました」
これまではあまりプレータイムが与えられず、苦労してきた3年間をチームメイトも見て来たからこそ、「みんなも応援するし、それに対して本人も乗ってくる。彼女の得点や活躍がみんなを元気にし、チーム全体に良い影響を与えてくれました」と佐久本智ヘッドコーチは星を称える。オフェンスだけではなく、2試合とも3本のスティールを決めたディフェンスも、チームを活気づける活躍だった。
「劣勢の状態から選手たちがすごくがんばってくれて、最後に勝てたことが一番うれしいです」佐久本智ヘッドコーチ
初陣は苦い結果となった佐久本ヘッドコーチは、「昨日は私が悪かったです」と非を認める姿が潔い。スパッと切り替えて迎えた2戦目、見違えるようなチームへ変貌させた。
「昨日は『渡嘉敷を狙え』と伝えたことで、それが仇になってしまいました。今日は『ボールを展開しよう』と伝え、選手たちはそこを意識してプレーしてくれたことで良い流れにつなげてくれました」
立ち上がりこそ初戦同様、トヨタ自動車にペースを握られたが、ディフェンスから立て直し、全員が積極的にゴールへ向かったことで73-68、逆転勝利。「劣勢の状態から選手たちがすごくがんばってくれて、最後に勝てたことが一番うれしいですし、コーチ冥利に尽きます」と2戦目にして勝利をつかんだ新指揮官は喜びとともに、少しは肩の荷も下ろせただろう。
3年前、2019-20シーズンはリーグ1位で頂点に立った。しかし、新型コロナの猛威によりプレーオフが中止され、優勝決定戦も行われなかった。前人未踏の11連覇を成し遂げた2018-19シーズンが最後のチャンピオンであり、プレーオフが再開した直近2シーズンは優勝から遠のいている。ENEOSの伝統である堅守速攻をベースに王座奪還を目指す。優勝していた時代と比較し、渡嘉敷がいても他のポジションは、身長で見劣りするのは否めない。「小さいサイズの選手たちでも、今日のように流れを作れることができると感じられる試合になりました」という手応えを得た佐久本ヘッドコーチは、新たなENEOSのスタイルを築いていく。