テーブスヘッドコーチが言うように、プレーオフ セミファイナルから富士通の武器が鳴りを潜める。最後の4試合の試投数は平均24本(※シーズン平均30.8本)、成功率も27%と振るわなかった。この試合も40%と確率こそ上がったが、試合を通して20本しか打てていない。その仕事をすべき宮澤とオコエのファウルトラブルも尾を引いた。残り4分、オコエは5つ目のファウルとなったときには、20点のビハインドを背負っていた。87-71で振り切ったトヨタ自動車が勝利し、昨シーズンに続く2連覇を達成した。
「泥臭くやらなければ勝つのは難しいとみんなで共通理解」河村美幸
第1戦はリードされていたトヨタ自動車が第4クォーターに20点を挙げ、富士通の攻撃を8点に抑え、逆転勝利を呼び込んだ。第2戦も、最後の10分間で26-19と圧倒していった。きつい終盤に力を発揮できるのがトヨタ自動車の強さであり、「日頃の努力の賜物だと思います」とエブリンは胸を張る。大躍進を遂げたルーキーのシラは、「練習中はケンカするぐらいバチバチ」と明かせば、三好南穂も「おちゃらけているように見えるかもしれませんが、コートの上では本当にみんな真剣。お互いにバチバチで、練習中からケンカしているようにやり合っているカルチャーがこのチームにできたと思います」と自らにむち打ち続けた結果が、最高の形で現れた。
昨年12月16日の皇后杯準々決勝で、富士通に敗れたことが分岐点となった。今シーズンは他チームのエースクラスが移籍し、個々の能力は申し分ない。しかし、チームスポーツは同じ方向に向いて戦わなければ、その力も発揮できない。富士通に敗れる前から感じていた違和感を吐き出すように、キャリアに関係なく腹を割って話す機会を設けた。日をまたいで行われたそのチームミーティングにより生まれたスローガンが、『泥臭いトヨタ』であり、ルーズボールを追いかけ、顔を歪めながら体をぶつけ続けた。キャプテンの河村美幸は、笑顔で苦しかった4ヶ月間をこう振り返る。
「皇后杯で富士通に負けてすごい悔しい思いをしました。泥臭くやらなければ勝つのは難しいとみんなで共通理解をして、その後は妥協することなくトレーニングもバスケも一生懸命みんなで取り組んできました。昨日も35分間くらいはずっと苦しい時間が続いていましたが、ヘッドコーチやスタッフ陣も含め、全員で乗り越えて勝つことができました。今日は、昨日とは違う展開となり、最初からスタートで出た5人が引っ張り、後から出た自分も含めたベンチメンバーとともに全員でつかみとった優勝です」
町田瑠唯は「自分たちのやりたいディフェンスやオフェンスをやり続けられなかったのが一番の敗因」と肩を落とす。宮澤も「ディフェンスで的が絞りにくく、外もあるしインサイドも強いので、そこがすごく難しかったです」と悔しい表情を見せる。彼女らの言葉がトヨタ自動車の強さを言い表していた。
第1戦の修正をしてこの試合に臨んだルーカスヘッドコーチは、「オフェンスでは相手の弱点を突くことができたが、もっとも大事なのは選手たちが私の指示した戦略をしっかり遂行してくれたこと。それこそが1年間努力した結果であり、選手たちに感謝したい」と多くを語らず、静かに隣で笑顔を見せる選手たちにスポットライトをあてた。
試合後、両チームとともにファイナルにはたどり着けなかったが今シーズンの各アウォードを受賞した選手たちが入り乱れ、笑顔と涙に包まれる。この光景がそのままゴールデンウィーク(5月4日・5日)に変更となった「ステーキハウス ブロンコビリー presents Wリーグオールスター 2021-2022 in 代々木」へ続いて行く。Wリーグ レギュラーシーズン・アウォードで3ポイントシュートとフリースローの2部門で成功率No.1、さらにベスト5を受賞した三好南穂。引退を表明しており、これが本当のラストダンスとなる。
文・写真 泉誠一