もう1人は中村華祈。陽本と同じくルーキーだが、こちらは高卒……という言い方は正確ではない。何故なら、中村はこの4月に新潟医療福祉大の2年生となるからだ。アーリーエントリーを除くと、現役の大学生がWリーグでプレーするケースは初であった。
全国屈指の強豪、札幌山の手高でウインターカップ3位の経験を持つ中村。卒業後の進路希望はWリーグ1本だったが、上島正光監督と新潟・大滝HCのパイプがきっかけで、クラブのスポンサーでもある新潟医療福祉大に通いながらプレーする案が浮上し、中村はその道を選択した。前例のないケースに、中村は不安が全くないわけではなかった。
「1人目なので、もし私が挫折してどちらかを途中でやめてしまうようなことがあったら、それは今後の選手たちにも関わってくる。大学生Wリーガーという選択肢がこの先も続いていくようにという点では、プレッシャーは少しありました」
それでも、1月に19歳になったばかりのルーキーとしては堂々としたプレーぶりだった。途中ケガで戦列を離れたものの15試合に出場し、そのうち12試合はスターター。1試合平均23.5分というプレータイムは、主力と認められた証拠だ。本人はルーキーイヤーを以下のように振り返る。
「スピードのあるドライブと3ポイントが自分の武器なので、そこは自信を持ってプレーしようという心意気で毎試合臨んで、通用した部分もありました。でも、当たりの弱さもあったのでそこは鍛え直したいです。上手くいくこともいかないこともたくさんあったんですけど、プレーの面でもそれ以外でも、周りに生かしてもらうことで自分はプレーができていたんだなということはすごく感じました」
新潟は今シーズン、わずか1勝。札幌山の手高で過ごした3年間、試合に負けることが年に数回しかなかった中村にとっては、180度異なる環境と言っていい。もちろん、勝てない日々は精神的に厳しかったに違いないのだが、これも経験のうちということは中村自身もよく理解し、このたった1シーズンの経験から責任感も生まれてきている。
「高校時代は勝つことが当たり前だったので、新潟ではモチベーションの持ち方は全く違いましたし、勝つために何をしないといけないかということをよく考えたので、本当にいろんなことを学んだし、先輩たちから教わりました。それは来シーズン新しく入ってくる選手にもつないでいきたいと思います。なかなか勝てないチームですけど、それが当たり前ではないようにしていきたいし、そのために自分が率先して動いていきたいです」
アンダーカテゴリーで日本代表に選ばれたこともある中村は、高みを目指す意識も強い。目標としている選手は、高校の先輩にあたる本川紗奈生(デンソー)。「ドライブも3ポイントも上手い、わかっていても止められない紗奈生さんみたいな選手になりたい」と、リオデジャネイロオリンピックにも出場した名手に憧れを抱く。札幌山の手高は他にも町田瑠唯(富士通)や長岡萌映子(トヨタ自動車)、東藤なな子(トヨタ紡織)と3人の銀メダリストも輩出。シーズン最終戦で対戦した東藤に関しては2学年違いで、1年間その凄さを間近に見てきた。
「高校のときからなな子さんの背中を追いかけてきましたし、その姿を見てWリーグでプレーしたい気持ちも強くなったので、これからもまたなな子さんを追いかけて、日本代表にも関わっていけるような選手になりたいと思っています」
今シーズンの新潟には、他にも前述した河村や貴重なインサイドプレーヤーの矢野祐未といったルーキーが出場機会を確保した。B3まで含めると51チームあるBリーグに比べ、13チームしかないWリーグは、狭き門であることは確か。その高いレベルで1シーズン揉まれた彼女たちが、来シーズンどのようなパフォーマンスを披露するか。そして、新潟の現状を打破することができるか。
文 吉川哲彦
写真 W LEAGUE