チームは年内の12試合を終えた段階で1勝11敗。絶対的な存在である本橋のプレータイムが制限されている影響は否定できないが、今は大事な場面になると本橋にボールを預けるという “本橋頼み” から脱却しようとしている、いわばチームとして過渡期に差しかかっているという側面もある。
「自分が入る前のことはわからないですけど、やっぱりチーム全体がナコさんナコさんと思っている部分はあって、それがナコさんのケガでみんな変わったと思うんですよね。ナコさんに頼りすぎない、自分がやるっていう気持ちが出てきて、良くなってきていると思うんです。1つ勝てば変わるという感じはあるんです。ただ、そこをグイッといく意識がまだ足りないのかなって。あとは流れを持ってくる何かが必要で、私はそのきっかけになりたいです」
年が明けた1月1、2日のデンソー戦は、その「1つ勝てば変わる」の「1つ」として多くの人の心に刻まれる可能性がある。1日の第1戦は前半にリードを奪い、最後は敗れたものの9点差と粘った。翌2日の第2戦も一進一退の展開となり、6点ビハインドで突入した第3クォーターは小笠原美奈の連続3ポイントで一気に追いつくと、フィジカルなディフェンスとリバウンドで相手を苦しめながら、オフェンスではミスが出ても強気に攻め、シュートが外れてもリバウンドに飛び込み続けた。このクォーターに限れば東京羽田は27-13とデンソーを圧倒し、8点のリードを奪った。
第4クォーターも勢いは止まらず、残り8分を切ったところでリードは14点まで広がった。しかし、そこからエンドスローインに対するデンソーのプレスディフェンスにターンオーバーを連発し、本橋と軸丸の2ガードで対応するも点差は徐々に縮まっていく。残り37秒にはついに4点差と射程圏に迫られたが、ここで大きく勝利を呼び込んだのが残り24秒に飛び出した軸丸のバスケットカウントだった。最後は相手の3ポイント成功後にスローインを受けた軸丸がフルスピードのドリブルでディフェンスをかわし、79-74でタイムアップ。髙田真希が欠場したとはいえ前日まで15戦全勝と突っ走っていたデンソーに、東京羽田は土をつけてみせた。
試合終了直後は歓喜の輪の中で目頭を押さえていた軸丸だが、試合後の取材対応では「ナコさんがいて良かったと思いました(笑)」と笑顔。「ガードのブレない強さってチームに安心感を与えると思うんですよ。そういうメンタルの部分も、技術的な部分もまだまだだなと痛感しました」と反省の弁も口にしつつ、「逃げてはいられないという気持ちでした。どの試合も逃げ腰な試合は一つもなくて、今日も本気で勝ちを狙っていたので引く気はなかったです。みんなにも『守りに入っちゃダメだ』と伝えていました」と攻めの姿勢が勝利という結果を生んだことを強調した。
実は、わずか1勝で迎えたこのデンソー戦を前に、萩原HCが選手たちに「落ち込んでないかい?」と問いかけたらしく、それに対して「私はどの試合も勝ちにいきたい」と答えたのが軸丸だったという。萩原HCの巧みな選手起用で津村ゆり子を筆頭に個々の持ち味が発揮され始め、本橋という大黒柱の完全復活も近い中、軸丸はその勝利への渇望で東京羽田に欠かせない存在になっていくに違いない。
文 吉川哲彦
写真提供 東京羽田ヴィッキーズ