本川 「デンソーに移籍してから、『思いっきりプレーしていないな』『なんかイチ(※本川のコートネーム)らしくないな』って思ったんです。何かを変えなければいけないとも思っていました。私ってそんなに考えてプレーするタイプじゃないし…もちろん良い意味でね。だから、『これをやろう』『あれをしなくちゃ』と、逆に頭を使いすぎていたんだと思ったんです。でも、空いたら打てばいいし、抜けるんだったら自分の意志で行けば良い。その単純なことができていませんでした。
でも、それが吹っ切れたことで、今は自分らしいプレーができはじめています。そういうメンタルの部分で、シャンソンのときのような感覚が戻ってきたなというのはすごく感じています。ずっとリツさんが引っ張ってきたデンソーだからこそ、そこを変えたいという気持ちもあります。だからこそ、リツさんのいなかった先週の三菱電機戦は絶対に負けたくなかった。
実は、今シーズンは開幕前からケガが多くて、調子もあまり良くなかったです。開幕戦後にまたケガをしてしまったときに、『なにしてんだろう…』と思ったことで、我に返ることができました。移籍した当初は、『プレーが落ちた』と思った人もいるかもしれないし、『イチらしくない』と言われることも多かったです。自分自身でも、『なんか違うんだろうな』と思っていました。でも、デンソーに来てから成長もしていたし、考えるバスケットに最初は苦戦したけど、段々とそのおもしろさも分かってきました。その中で、自分がどう生きるかを考えた時に吹っ切れたことで、今はもう思いっきりマリーナのバスケットを表現できています。
自分を信じられなかったことも大きかったと思っています。そのメンタルに対して、『自分のことを信じてあげよう』と思ったことがきっかけで、なんか変わることができました。シャンソンのときは、自分がやりたいバスケットをしていただけで、『そんなの見ていておもしろいのかな』とも正直思ったときもありました。でも、バスケットはチームでプレーするからこそおもしろい。今はそれを追求し、どうやったら全員でおもしろいバスケットを見せることができるか、デンソーというチームの中で自分をどう表現できるかをすごく考えています」
リオデジャネイロオリンピックをはじめ、様々な経験をしてきた29歳。猪突猛進の如く、ドライブ一閃ゴールを奪ってきた本川だが、今は確率良く3ポイントシュートを決め、まわりを生かしながらチームとともにまだまだ成長している。本川だけではない。同じくリオ組であり、2019-20シーズンに移籍してきた近藤楓も輝きを増していた。
「若い子には負けてられないよね、という話はしました。絶対に自分たちの方ができる、絶対に負けてないという気持ちは強いです。メルさん(※近藤のコートネーム)も思いっきりプレーできているし、だからこそ安心して任せられます。今日も大事なところで交代させられたけど、メルさんならばプレーが安定しているから負ける気がしなかった。ありがとう、お願いします、という感じで託せています。昨シーズンのメルさんとは、もう全然違います」
寅年を迎えてもなお、東京オリンピックフィーバーが続いている。その影で、フツフツとリオ組が闘志を燃やしていることこそが、女子バスケの強さである。ENEOSの渡嘉敷来夢もリオ組だ。強気な選手たちによる優勝争いとともに、2月に大阪で行われるFIBA女子ワールドカップ世界予選で、ふたたび彼女たちが日本代表に食い込んでくる可能性にも期待したい。
文・写真 泉誠一