しかし、今シーズンはクラブ型の4チームに限りホームゲーム開催が認められ、山梨もホームゲームが復活。その最初が先に挙げたENEOS戦であり、水野も「開場した瞬間にたくさんの方が入ってきてくださって、込み上げるものがありました。『やっとホームゲームができるんだな』って」と感慨深かったようだ。
「あと一歩のところで頑張れる後押しをもらえる」とホームゲームの良さを語る水野は、この試合で3ポイント4本を成功させている。「思い切って打てたというのもありますし、1本決めたときの会場のどよめきや拍手で気持ちが上がって、良い気持ちのままプレーできました」とファンの存在に感謝し、「本音を言えば勝ちたかったし、勝てたゲーム。でも、ちょっと『おっ?』と思わせることはできたかなと思います。ああいうゲームをシーズン通してできるようにしていきたい」と今後の飛躍を期す。
そしてシャンソン戦の前週、11月13日の東京羽田戦でわずか1点差ながら今シーズン初勝利。ENEOS戦と同じ鐘山スポーツセンターに集まったファンに白星を届けた。水野は「1人ひとりが役割を果たしたという充実感があったし、観客の皆さんも喜んでくれて一体感があったと思います。一緒に勝利を分かち合える瞬間がすごく良かったです」と語り、改めてホームの良さを感じた様子。「応援に来てくださる方の顔を見ると、職場の方もいますし、ミニバスや中学生の子を見て『クリニックで会ったことがある子だ』と気づくこともあります。支えられ支え合いというか、自分たちも地域に還元しながら皆さんからパワーをもらっていると感じます」と水野が言うように、クィーンビーズの選手たちはファンと互いに何かを供給し合う理想的な関係を築いている。
さて、先に書いたように忍野中学校は東京五輪にも縁のある場所だが、21日のシャンソン戦には日本代表の恩塚亨ヘッドコーチが視察に訪れていた。東京五輪でアシスタントコーチを務めていた恩塚HCは、水野の母校である東京医療保健大学のHCでもある(来年3月退任予定)。また、本橋菜子(東京羽田)は東京・明星学園高校の1年先輩。身近な人物が2人も日本バスケ界初の五輪銀メダルという快挙を成し遂げたことは、水野にとって刺激にならないはずがない。
「私も勇気と感動をもらった1人。日本は世界の中では小さくて、自分たちと共通しているところはあるので、クィーンビーズもああいうふうに勝ち進んでいければと思いました。本橋さんに関しては昔からすごいと思っていたんですけど、代表に選ばれたのはここ数年。少しのチャンスでも頑張り続ければ結果を残せるんだと思わせてくれました」
クィーンビーズには、山梨にバスケを根づかせる、バスケで山梨を盛り上げるという使命がある。Wリーグを含む女子バスケがかつてないチャンスを迎えている今、水野は自分たちのあるべき姿に想いを馳せ、気持ちを新たにしている。
「県内でも初めてバスケを見る人がいたり、オリンピック選手が見たいから行ってみようという人もいっぱいいると思うんですよ。そういう人たちにクィーンビーズというチームがあるんだということを知ってもらって、オリンピック選手を見に来たけど、このチームすごく魅力的じゃんって思ってもらえるチームを目指したい。県民の皆さんに『山梨にはクィーンビーズがあるんだぞ』って誇ってもらえるようなチームにしていきたいです」
文 吉川哲彦
写真提供 山梨クィーンビーズ