「梨=ラ・フランス」という連想が働いたのかどうかは定かではないが、山梨県はフランスとの関わりが強く、県全体の他にも7つの市町村がフランスの自治体と姉妹都市提携を結んでいるそうだ。余談だが、ラ・フランスはその名の通りフランス原産であるものの、国内で梨の産地といえば千葉県や茨城県、鳥取県などが上位を占め、洋梨もよく知られているのは山形県や新潟県。山梨県は梨の産地として有名なわけではない。
それはさておき、山梨県とフランスの結びつきはバスケット界にも波及し、今夏の東京オリンピックの出場権を得た5人制男女と3人制女子のフランス代表が南都留郡忍野村で直前合宿を実施した。合宿会場となったのは村立忍野中学校。男子では現役NBA選手のルディー・ゴベアやニコラ・バトゥーム、女子では日本戦でも活躍してベスト5に選ばれたサンドリーヌ・グルダらが、人口1万人に満たない(2020年5月時点)村の中学校で大舞台に備えたのである。その結果、5人制男子が銀メダル、同女子が銅メダルに輝いたことは忍野村や山梨県にとっても明るい話題だ。
忍野中学校といえば、Wリーグ山梨クィーンビーズのホームゲーム会場にもなっていることを忘れてはならない。Bリーグではサンロッカーズ渋谷のホームアリーナである青山学院記念館など、教育関連施設で公式戦を行うことも間々あるが、Wリーグではレアケース。フランス代表の合宿地となったことや、雄大な富士山を間近に一望できる絶好のロケーションも考え併せると、トップリーグの公式戦会場として強いインパクトを持つことは間違いない。
その忍野中学校での山梨ホームゲームは今シーズン2節・4試合が組まれ、11月20日、21日はシャンソン化粧品を迎え撃って開催された。第1戦は前半に14得点しか奪えず、第2戦は後半に引き離される展開で連敗。高さに加えて3ポイントシュートの精度でも差をつけられ、第2戦はチェンジングディフェンスで粘り強く戦ったものの、リバウンドを支配されてしまった。
ただ、まだ8試合しか消化していないとはいえ、今シーズンの山梨は一味違うと思わせる試合があったことも事実だ。富士吉田市の鐘山スポーツセンター総合体育館で迎えた10月23日のシーズン開幕戦はENEOSという強敵が相手だったが、25本放った3ポイントが13本成功と大当たりして91得点。最後は4点差で敗れたものの、最終盤まで上位チームと競り合いを演じたことは大きな収穫だった。
開幕前は東京五輪のあとにアジアカップもあり、ENEOSは日本代表の活動でチームを離れていた選手が複数いた上、故障者の多さで9月のWリーグアーリーカップも辞退せざるを得ず、チームとして完成度がまだ高くなかった。とはいえ、それらの条件が山梨の健闘の価値を下げることは決してなく、キャプテンの水野菜穂は「ENEOSという名前に負けず、全員が自分たちのプレーをして勝ちにいこうという気持ちで試合に臨めたことが一番大きかったと思います」と振り返る。
選手にそんな気持ちを抱かせた要因の一つが、ホームゲーム開催だ。昨シーズンはコロナ禍を受けてWリーグが東西2地区制を敷き、全試合をリーグ主管にして東西それぞれで集中開催。甲府市内での試合開催はあったものの山梨のホームゲームでないばかりか、無観客試合だった。そのときのことを水野はこう述懐する。
「リーグ戦という感じがしなくて、やっぱり雰囲気は全然違いました。コロナ禍以前はお客さんの声もすごかったですし、1プレー1プレーに対するリアクション、沸き方もすごかったので、寂しさは尚更感じましたね」