東京羽田と戦った2試合に関しては、また違ったモチベーションも渡嘉敷にはあった。試合会場のウイング・ハット春日部がある埼玉県春日部市は地元であり、渡嘉敷はかすかべ親善大使も務めている。実は昨シーズンもこの会場で試合があったが、ケガを負った2カ月後とあって出場はできず、この2試合が久しぶりにプレーを披露する機会となった。
「中学時代の仲間とか、親の職場の方とか親戚、地元の協会の皆さんに元気な姿をお見せすることができて本当に嬉しかったです。春日部市全体で応援していただいているので、恩返しできて良かったです」
ウイング・ハット春日部の1階正面入口付近には等身大のパネルや過去に着用したユニフォーム、シューズなどが展示されている。チームは裏口から会場入りするが、渡嘉敷は「ダンさん(山﨑舞子統括)が春日部に着いてすぐに写真を送ってきてくれました、『いるよ』って(笑)」と、等身大パネルの存在は毎回確認しているようだ。この2試合ではユニフォームやバッシュが入ったショーケースが3階の一般入場口に移設され、来場客が見られるように配慮されていた。
「嬉しいですね。まぁ自分のホームなんで(笑)、こうやって飾っていただいていると『帰ってきたな』って感じもしますし、明日履いたバッシュは置いていこうと思ってます」
そして渡嘉敷にとってはもう一つ、東京オリンピック終了後のシーズンという点もモチベーションになる。自身の出場は叶わなかったが、Wリーグや女子バスケットが注目を浴びる状況をチャンスと受け止めているのは当の銀メダリストたちだけではなく、これまでメディア露出の機会が多かった渡嘉敷も同じ。銀メダリストたちをプレーで上回り、チームを再び頂点に導くことで存在感を示したいと誓う。
「テレビにいろんな選手が出ているのはすごく嬉しいです。そこがきっかけでも見ていただければ、きっとENEOSのファンも増えますし自分も知ってもらえると思う。もっともっとバスケットを広めていきたいなって思います。連覇する難しさをトヨタさんに教えることができればと思いますけど、まずは自分が帰ってきた姿をたくさんの方に見てもらって、チームメートと一緒に最高の瞬間を目指したい。1試合1試合チームが進化していく姿に注目してもらいたいと思います」
大ケガからの復活や女子バスケットブームなど、様々なモチベーションが重なった今シーズンの渡嘉敷のプレーは、今まで以上に魂のこもった気迫あふれるものになるに違いない。Wリーグにとっても、ENEOSにとっても転換期となるであろう2021-22シーズンは、リーグの看板選手である渡嘉敷にとってはことさら大きな意味を持つ重要なシーズンだ。
文・一部写真 吉川哲彦
写真 W LEAGUE