もちろん逆の考え方もできたはずだ。渡嘉敷や梅沢がいるからこそ、プレータイムは限られる。カテゴリーが違うとはいえ、早稲田大学のエースを張った中田である。他チームであれば、あるいは即スタメンで起用してくれるかもしれない。
「そこは自分自身に足りないことがたくさんあるって思っていたから……日本代表と大学の両方を同時に経験したこともあると思うんですけど、日本代表に行くと、すごく簡単に言えば『自分が一番下手くそだ』って思う環境があるわけです。でも大学では自分がエースなわけです。もし日本代表を経験することなく、いきなりENEOSに入ったら、挫折したかもしれません。でも大学時代に日本代表に入ったことで、できていないことがたくさんありすぎて、ここだったら試合に出られるかもってあまり考えなかったですね。日本代表で試合に出られないこともあって、少しでもうまくなれるところに入ろうって考えたんです」
2019年のアジアカップでは4連覇の大きな推進力にはなれなかったが、優勝するまでの過程に触れるなかで「いつかはちゃんと試合に出て、自分の力で優勝してみたい」と思うようになった。高校時代、周囲からは「東京オリンピック世代」などと言われていたが、当の本人たちは「無理でしょ」と冷めた思いでそれを聞いていた。しかし一見すると遠回りにも見えた大学進学で、求めていた試合経験を積んだ中田は今、実際にそれが手の届くところにいる。
もちろん今はWリーグでの12連覇に向けて、これまで以上の努力をしなければいけない。渡嘉敷、梅沢の復帰が厳しい後半戦は中田ら残った選手にかかる負担も間違いなく大きくなる。しかしそうした苦境を受け入れたうえで、よりよいパフォーマンスを発揮したい。相手チームからのスカウティングも綿密になり、簡単にはプレーできないかもしれないが、それを乗り越えることができれば、いや、乗り越えようとすることで、その先の未来は広がる。
ENEOSにとっても、女子日本代表にとっても渡嘉敷のケガは大きな痛手である。しかし一方でこういう見方もできる。つまり中田をはじめとした渡嘉敷と同じポジションの選手にとってはチャンスである、と。
「他のチームが、タクさんがいないことで『今のENEOSはチャンスだ』って思っていると思います。それと同じくらい、私にとってもチャンスだと思っています」
そのチャンスをいかに生かすか。
試合に出るだけでは意味がない。出て、正統派のバスケットを貫いて、いかに渡嘉敷の穴を最小限に食い止められるか。中田がそれを達成できたとき、渡嘉敷が戻ってきたときのENEOSは、そして女子日本代表は今よりももっと強くなれる。
ENEOSサンフラワーズ #33 中田珠未
苦境が導いた覚醒のとき
前編 内なる“闘争心”を解放し、皇后杯8連覇に貢献
中編 自らを貫くことで、開かれる道がある。
後編 チャンスを生かしてこそ、未来は生まれる。
文 三上太
写真 W LEAGUE