「だから強豪チームを教えることはしたくない。つながりがなきゃ勝てないんだよというメンバーでチームを強くしていきたいんです」
そして藤岡はこう続ける。
「正直に言えば、バスケットだけの関係だった人もたくさんいます。でも自分はバスケットがなくなったときでも人として惹かれたり、尊敬される、そんな人でありたい。そのことを子どもたちに教えるのは大変だと思うんですけど、さまざまな経験をしてきたからこそ伝えられる重みもあるし、自分が積み上げてきた経験は大事にしていきたいなって思います。どのカテゴリーであっても、そうした考えの指導者に出会えれば子どもたちは絶対に変われると信じています。直接関わった数年間で変われなくても、後々『そういえば麻菜美コーチがそんなことを言っていたな』って記憶に残れば、それでいいんです」
なかには競技力が頭抜けている子もいるだろう。それだけでチームを勝利に導き、自身も高いレベルに引っ張り上げるような子が出てくるかもしれない。しかし藤岡が目指しているのは、その子自身が持つ競技力だけで得たレベルよりもさらに高い、もっと上の光景を見てもらうことだ。そこに人間力の向上は欠かせない。
JX-ENEOSを選んだことも、4年で現役引退を決断したことも、そこには一片の後悔もない。ケガで苦しみ、チームメイトとの齟齬に苦しんだが、それもまた自分の選んだ道であり、これからの人生の血肉となる。
「苦しんだ経験を自分のなかだけで完結させてしまうと、もしかしたら後悔が残ったかもしれません。でも自分の経験を次の世代の子に伝えられると思うと、苦しんだことさえもすごくプラスに考えられるから、すごくよかったなって思えるんです」
藤岡はこれから踏み出す指導者の道に対して、こう続ける。
「これから始める指導者という仕事はずっとやりたいと思っていた仕事でした。そこで子どもたちから教えられることもあるだろうし、そこでまた自分自身が大きくなれたらなって思います」
ケガに苦しんだ。
考え方の齟齬に苦しんだ。
それでも次の一歩を踏み出す。
次世代の子を大きく育てるために。
自分自身の人間力をより磨くために。
藤岡麻菜美は信念を貫いて、ユニフォームを脱いだ。
元JX-ENEOSサンフラワーズ 藤岡麻菜美
信念を貫いて
part1「もう本当に続けてもダメかな……」
part2「過程にこそ結果以上の価値がある」
part3「新たな挑戦を次世代の子らとともに」
※JX-ENEOSサンフラワーズは2020-21シーズンより「ENEOSサンフラワーズ」に名称変更をしたが、本記事は改称前の「JX-ENEOSサンフラワーズ」で統一します。
文・写真 三上太