知的好奇心である。それこそが本橋の原動力となっている。
もちろんうまくいかないこともある。そういうときはすごく落ち込むし、考え込んでうまく処理できないこともある。それでも前を向かなければ、その先に差し込む光を見つけることはできない。
「いろんなことを考えるのもよくないなと思っているので、できることからコツコツ、当たり前のことを当たり前にコツコツやっていくしかないなって考えています。たとえばディフェンスは絶対に裏切らないと思うし、単純なミスをしないとか、そういった当たり前のことをコツコツコツコツ積み重ねていけば、絶対にいつか自分の流れに来るなって我慢してやるようにしています」
昨年4月に始まった日本代表合宿は苦悩の日々が続いていた。アジアカップ直前までそれを引きずったが、できることをコツコツやり続けることで、本橋はアジアカップのMVPに選出されている。
「いつか乗り越えられると信じてやっていくしかないかなって」
そう言って笑顔を見せるところに本橋の芯の強さを見つけることができる。
目指すべきポイントガード像について本橋は、将来的には「余裕のあるポイントガード」だと改めて認めながら、今年はそれを一旦脇に置くと言う。
「今年はオリンピックがあるので、目指すのはそこではないですね。今まで求められてきたように、ひとつひとつのチャンスを見逃さないで、積極的にシュートを狙っていくことが東京オリンピックに向けた私の目指すべきポイントガード像なのかなって思います」
羽田を1つでも上の順位に導くことももちろんだが、本橋の目はすでに東京オリンピックをその視界に入れている。もちろんまだ最終メンバーが確定したわけではない。しかしアクシデントがない限り、彼女がその舞台に立つ可能性は極めて高い。
1964年10月10日、東京オリンピックの開会式がおこなわれた。その29年後の1993年10月10日、本橋菜子は産声を上げている。
東京羽田ヴィッキーズ #12 本橋菜子
コツコツと、今できることを
part1「常にゴールを狙うポイントガードとして」
part2「貫くことでリズムを取り戻していく」
part3「ポイントガードの手腕にかかるセットプレー」
文 三上太
写真 安井麻実