覚えていなければ、ホーバスヘッドコーチの厳しい声が容赦なく飛んでくる。体格で劣る日本が世界を相手に勝利を得ようと思えば、それほどまでの厳しさを、体力や技術だけでなく、脳細胞にまで求められるのだ。
吉田は練習で覚えて、紙に書き出されているものを見て覚えて、部屋に戻って映像を見て覚える。基本的にはこの3段階で覚えているという。しかし前述のとおり、ポイントガードは他のポジションの動きも覚えなければならない。そうしなければ的確な指示が出せないからだ。その動きもけっして単純ではない。
「これはJX-ENEOSの話なんですけど、今のJX-ENEOSはポイントガードが多いから、『2番やらせて』とか、『3番の動きをやらせて』と言って、1番のポジションを覚えたら、次に2番のポジションの動きを覚えて、3番の動きも覚えたりしています」
生き残りが厳しい世界だからこそ
その一方でチームメートの中にはいわゆる「物覚えの悪い」選手もいる。しかし彼女たちの動きを知っているはずの吉田は、けっして手取り足取り教えることはない。その理由について、吉田はこう言っている。
「自分で気づかないと意味がないと思うんです。もちろん誰にでも優しくしてあげることはできます。でも私はそんなに甘やかしたくないし、自分で方法を見つけてやらないと絶対に頭に入らないと思うんです。私が覚えられる方法で『こうやってごらん』って言っても、その子は覚えられないかもしれない。自分で必死になって覚えないと全然意味がないし、頭に入ってこないと思うから、私は絶対に甘やかさないですね」
コート上で見る吉田の強気が表れているようにも聞こえるが、むしろその考えのほうが正論である。自分なりの方法で、自分自身が解決策を見つけ出さなければ、厳しい勝負の世界では簡単に淘汰されてしまう。努力を怠れば、簡単に出し抜かれてしまう。それほどまでに厳しい世界で彼女たちは戦っている。そのなかで14年間もトップを走り続けている吉田のすごさを、改めて感じずにはいられない。