part3「何をやっていいか、まったくわからなかった」より続く
引退、復帰、そして日本代表への再挑戦
2019年3月、吉田は惜しまれながら現役を引退した ── が、同年9月、電撃的に現役復帰を果たし、11月にはマレーシア・クアラルンプールでおこなわれたプレOQT(東京オリンピック予選のアジア予選)にも日本代表のメンバーとして出場している。2017年にインド・バンガロールでおこなわれたアジアカップ以来、2年ぶりの代表復帰である。
「トム(・ホーバス女子日本代表ヘッドコーチ)のバスケットはね、プレーコールがめちゃめちゃたくさんあるんです(笑)」
50個くらいあるの? ── あるんじゃないかな。
100は? ── どうかな? 数えたことはないけど、いろんなオプションもあって、とにかくめちゃくちゃありますよ。
すべてを1試合で使うわけではない。しかしいつ、何をコールされるかわからない選手たちは50とも100とも言われるコールプレーをすべて覚えなければいけない。
「しかもポイントガードは基本的に全部のポジションの動きを覚えなきゃいけないんです。まずは自分のポジションの動きを覚えて、次に2番はどう動いて、3番はどうで、4番はこうで、5番の立ち位置は……とかすべてを覚えなきゃいけないから、めちゃめちゃ大変なんです。しかも『これはどこがポイントになるプレーなのか』、『どういうシチュエーションでこれを使うのか』、『この選手がいるときはこのプレーでいいけど、その選手が出ていないときは、このプレーはダメだな』と本質まで理解していないといけないから、それは久しぶりに大変でしたね」
プレOQTに限って言えば、準備期間は2週間しかなかった。その間にチームディフェンスの約束事も覚えなければならない。自然とオフェンス練習の時間は限られてくる。少ない時間の中でいかにプレーコールの全貌を覚えるか。ポイントガードに求められる資質のひとつと言っていい。
「1回練習して確認したら、次の日にはできるようになっているのが今の日本代表では当たり前なんです。11月のプレOQTのときなんて、それまでの2年間、私は全然日本代表に入っていなかったし、宮下(希保。アイシン・エィ・ダブリュ ウィングス)も初めての選出だったから、私と宮下はとにかく大変でした。それでもまだ私はトムのバスケットが何となくわかるからいいけど、宮下なんてゼロから入っているから覚えるのに必死になっていましたよね。だいたい午前中はコールプレーの練習をするんだけど、そのときに映像を撮っているから、それを必死に見て、覚えて、次の日には完璧にしていくんです」