part1「ポイントガードの真価が問われるとき」より続く
キャプテンをやったことが大きかった
ポイントガードとして常にチームへ目を向け、気を配る吉田亜沙美だが、もちろん彼女自身がフラストレーションを溜めたり、気持ちを落とすこともある。取材を重ねていると、そうした吉田の繊細さに出合うことは何度もあった。若いころの吉田はそれを態度に表すシーンもたびたび見てきた。
しかし人は変われる。
吉田も変わった。
「キャプテンをやったのがすごく大きかったと思う」
JX-ENEOSサンフラワーズに入って10年目、2015-2016シーズンから4年に渡って吉田は同チームのキャプテンを務めている。ときを同じくして2015年から日本代表のキャプテンにも指名されている。
「それまでもポイントガードとしてチームのことを考えなきゃいけなかったけど、キャプテンをやる前はチームのことを考えながら、自分のことも考えていたんです。でもキャプテンになったら、まずはチームとチームメート。自分のことなんて後回し。たとえば試合で自分のパフォーマンスがよくなくても、チームが勝てばそれでいいっていう考えに自分がなってきたときに、ちょっとだけ余裕ができたんですよね。勝つためにチームをどう奮起させるか、みんなのテンションをどう上げていくか、どういうふうに声を掛けたらみんなに響くかをちょっとずつ考えていくうちに、自分の中でも少しずつ整理ができるようになって、余裕のできている部分がたくさんあったんです。そこはすごく大きかったかな」
けっして好きでなったキャプテンではない。むしろ指名されたときは、そんな責任のあるポジションは「やりたくない」とさえ思った。責任のあるポジションはポイントガードだけで十分だと。それでも就任要請を引っ込めないコーチ陣の強い思いに触れるうち、いつしか吉田の考えも変わっていく。
「誰かが悔しい思いをするんだったら、自分がそれをしたほうがいいって思ったときに、キャプテンという責任あるポジションに就くことはすごくうれしいことだなって思ったんです。日本代表で、ヘッドコーチの内海(知秀・現レバンガ北海道ヘッドコーチ)さんがキャプテンにしてくれたときに覚悟を決めてやるって決断したときから、このチームが負けたら全部自分の責任だと思うようになりました。でも同時にそこから自分のプレーがすごくよくなったような気もするんです。それまでキャプテンでもポイントガードでもなくて、2番をやっていたときは、負けたら全員の責任って思っていたし、ましてやポイントガードのせいだなって思ったこともなかった。でもキャプテンをやるようになってからは、自分がキャプテンでポイントガードだから、全部の責任を背負おうって、そのときに覚悟を決められたんです」