part1より続く
今シーズン(2019-2020シーズン)からデンソーアイリスに移籍した近藤楓は、トヨタ自動車アンテロープスに在籍した4年目のシーズンに成績を大きく落としている。
その2シーズン前、リオデジャネイロオリンピックの前年だが、近藤は出場した24試合すべてでスタメン出場を果たし、1試合当たりの平均得点も11.42点と過去最高の結果を残している。それがリオデジャネイロオリンピックの女子日本代表候補に選出された要因のひとつだろう。さらにその翌シーズン、つまりリオデジャネイロオリンピックを終えた直後のシーズンでも、「少しモチベーションの下がる時期がありました」と認めながら、出場した全27試合中23試合でスタメン起用され、平均10.3点をあげている。スターの階段を着実に昇っているようにも思えた。
しかしその翌年、つまり4年目のシーズンは出場した33試合のうちスタメンで起用されたのはわずか7試合。平均得点も5.24点と前年の約半分にまで落ち込んだ。
そこには、のちに近藤が引退を撤回するうえで大きな要素となった移籍に関するルール変更があった。それまでのWリーグはチーム側に大きな権限があり、選手が移籍をしたいと望んでも、チームがそれを了承しない限り、移籍できないルールがあった。しかしその年から選手が望めば、チームは自由契約リストに載せなければならないというルールに変更されたのだ。
それを活用した大物選手がこぞってトヨタ自動車に移籍してきたのが、まさに近藤が成績を落としたシーズンなのである。シャンソン化粧品シャンソンⅤマジックから三好南穂が、富士通レッドウェーブから長岡萌映子が、そしてアイシン・エイ・ダブリュ ウィングスからは馬瓜エブリンが、それぞれ加入してきた。当然のことながらチーム内の競争は激化する。
その波にチームの得点源のひとりだった近藤も呑み込まれてしまったのか。
しかし近藤はそれをきっぱりと否定する。むしろ彼女たちの加入で少し楽になったと認めている。
「自分のことよりもチームで勝つ、日本一になるという気持ちは変わらずに持っていたので、選手がどんどん移籍で入ってきても、自分が、自分が、というよりチームが勝つために自分は何をすべきかを、そのころから考えるようになったんです」
元々過剰なまでの自信家ではない。むしろ「自分は下手だから練習をしなければいけない」と考え、コートでは「自分ができるプレーを100%出そう」という感覚の持ち主でもあった。それはバスケットを始めたときから変わらない近藤のポリシーでもある。
「だからといって、引くわけではないんです。やはりすごく負けず嫌いだとは思うんですけど、結構控えめというか、内に秘めるみたいな……やるときはやるんですけど、あまり自分が自分がという感じではないですね」
だから強烈な個性と、他を圧倒するほどの実力を持つ選手がチームに入ってきても動じなかった。むしろ我が道を猛然と突き進む選手たちのなかで自分はどうやって生きていけばいいのか。近藤はそういうことをじっくりと考えられるタイプの選手だ。