バスケとの出会いは街中でのスカウト
街を歩いていたら「バスケをやらないか」と誘われた。小学校の卒業間際の話であり、声をかけたのは中学のコーチだった。ちなみに、12歳の日本人女子の平均身長は150cm程度。それよりも27cmも高い177cmだった王新朝喜は、出身地である中国天津市の街中で突然スカウトされる。
「走れないので無理です」とすぐさま断った。後日、家に帰るとそのコーチが待っており、バスケをする気がない王は走って逃げた。しかし、原石を発見したコーチも引き下がらない。「一度で良いから練習を見に来て欲しい」と頭を下げる。仕方なく見学に行くと、その光景に心が動かされた。
「体育館がすごくきれいで、そこにいたみんなが楽しそうにバスケをしていました」
急転直下でスポーツに特化した中学校への進学を決める。同時に王のバスケ人生がスタートした。
早朝から午前中はバスケの練習を行い、午後から夜まで授業の生活リズムが続く。中国の中学バスケ事情をうかがうと、そこには独特なルールがあった。だからこそ、コーチは王を熱心にスカウトしたとさえ言える。そのルールとは、試合中に必ず2人は180cm以上の選手をコートに立たせなければならない。大きな選手を擁する中国だからこそ可能なルールであり、この世代からビッグマンの育成を担っている。
入学後まもなく180cmに到達した王は、「下手だったのでただ立っていただけ」でも必然的に試合に起用された。さらに185cmを超えると、出場するだけで勝ち点が上乗せされるルールもある。中学2年時の全国大会では、試合前に身長を測ってみたら186cmに伸びていた。これにより勝ち点上乗せルールが適用され、「ボールを触ることもなかったですが、先生はずっと私をコートに立たせていました」と必然的にプレータイムが増えていく。天津代表として臨んだ全国大会での最高位はベスト8。「なんで私なの?絶対に小さくても上手い選手が出た方が勝てるのに…」とこのルールに疑問を抱く。
中国には、今の王と変わらない188cm前後の選手がゴロゴロいたそうだ。ガードやフォワードも大きく、中学生で176cmのシューティングガードが活躍していたのを鮮明に覚えている。日本の男子における15歳の平均身長が約170cmだから、一際大きいことが分かるだろう。そんな大きな選手たちに対し、「ずっとゾーンディフェンスで中に立っていることしかできなかった」。それでもこの経験が王を成長させ、少しずつバスケにのめり込んでいく。