Wリーグ ファイナルは、デンソーアイリスの猛追を振り切ったJX-ENEOSサンフラワーズが71-59で勝利し、10連覇を達成した。12点差をつけての勝利だったが、一筋縄ではいかないファイナルでもあった。女王たちは、最後まで顔をゆがめながらの苦しい戦いを強いられた。第2クォーター早々、ゴール下での接触で鼻を負傷した大﨑佑圭選手が戦線離脱した影響も大きい。主力の吉田亜沙美選手は39分、渡嘉敷来夢選手と宮澤夕貴選手は40分間コートに立ち続けたことが、簡単ではない試合だったことを物語っている。
今シーズンの3Pシュート王となった宮澤選手は、渡嘉敷選手とともに今シーズンのベスト5を受賞した。負傷した大﨑選手に代わり、大沼美琴選手も9得点を挙げ、その穴を埋めた。苦しいデンソーとのファイナルを救った彼女たちアース(宮澤選手のコートネーム)世代のさらなる活躍が、11連覇に向かうためのカギを握る。
Fantastic4に名乗りを上げた3Pシュート王
ルーキーから4シーズン、宮澤選手の3Pシュート成功率は0%であり、試投数もたった1本だった。日本代表にも定着しはじめた昨シーズンより、世界を意識してスモールフォワードへ本格的にポジションアップを果たす。努力の甲斐あり、3Pシュート確率38.1%とすぐさまシューターとしての頭角を現した。今シーズンはさらにマークが厳しい中にも関わらず、47.1%まで引き上げて初の3Pシュート王に輝く。
「昨シーズンはまだ波があり、ダメなときが4〜5試合と続くこともありました。それが今シーズンはずっと安定した活躍ができたことはすごく自信になっています」
3Pシュートを武器として手に入れたことにより、「ディフェンスが寄ってくるようになったのでドライブで抜きやすくなりました」と積極性も増した。「昨年のアジアカップでジャブステップから相手が下がってるときにシュートを打つことができ、今シーズンはそれも新たな武器になりました」とバリエーションが増えたことで、シュート確率が上がった要因でもある。
吉田選手、大﨑選手、渡嘉敷選手が今後もJX-ENEOSの『BIG3』であることに変わりない。だが、そこに宮澤選手が加わり『FANTASTIC4』になったと言っても過言ではない。昨シーズンもさることながら、今シーズンもさらなる成長を遂げた宮澤選手であり、優勝の立役者の一人になった。だが、続くコメントは課題点が多い。
「ドリブル練習を継続しているので、前よりはドライブで抜けるようになったのかな。でも、トム(ホーバス)さん(女子日本代表ヘッドコーチ)には『もっと低く強く突け』と言われるのでまだまだですね。あとはパスも課題」
10連覇を達成した喜びの声を引き出そうとしても、「う〜ん……優勝したって感じはあまりしない」と素っ気ない。喜びよりも安堵の方が大きかった。その理由は、「こうなると思っていた」シーズンを乗り越えたからである。
“こうなる”とはどうなったことなのか?
「今シーズンは得点源として期待され、メインで使われるようになりました。今まではタクさん(渡嘉敷選手)とメイさん(大﨑選手)が最初にいて、そこにプラス自分でした。でも今シーズンは得点でチームを引っ張っていく役割があり、その立場にもなりました。インサイドにディフェンスが寄る分、絶対に自分が空くのでそこをしっかり決めていきたいという思いはありました。それができれば相手も的が絞れなくなるので、すごく守りにくいんじゃないかなと思ってました」
これまで以上に大きな責任を任された今シーズンを、優勝という形で乗り越えられたことに「ホッとしてます」。
11連覇へ向けて引っ張っていく『自覚はあります』
ファイナルでは負傷退場した大﨑選手に代わり、大沼選手がしっかりつないでくれた。昨シーズンの新人王であり、日本代表としてアジア3連覇に導く急成長を遂げた藤岡麻菜美選手だったが、その代償として今シーズンは開幕の2試合しか出られなかった。いずれも宮澤選手と同期であり、彼女らとともに次のJX-ENEOSを築いていかなければならない。
「不安はあります。でも、その中でもやっていかなければならないという自覚はあります。来シーズンはもっと自分の仕事が増えるとも思ってます。今まで以上にレベルアップしていかなければならないですね」
今シーズンは一緒にコートに立てなかった藤岡選手のことをいつも考え、苦しいときには支えになってくれた。
「毎回試合後にムービーを見ますが、本来であればネオ(藤岡選手)とのプレーも結構あります。それを見る度に『ネオの分もがんばらないといけない』と思っていました。練習中に結構しんどいときもありましたが、そのときはいつも『ネオは練習したくてもできないんだ』と思うことで、練習したくないとか思っていられないと前向きになりました。そういう面でもネオはすごく支えになってくれました」
試合後のヒロインインタビューをコート上で聞いていた敵将の小嶋裕二三ヘッドコーチは、JX-ENEOSとの差を実感させられる。
「口々に負けたくないとか、勝ち気だとか、強い気持ちがあるとみんなが言っていた。それに対して私自身が、彼女たちが口にするほど勝ちたい気持ちを日頃どれだけ持ち続けているかということを自問自答させられた」
JX-ENEOSの強さは、その地位を脅かそうとするライバルチームと争いだけではない。日々の練習から競い合い、前人未踏の11連覇に向けてはさらなる激しさが必要になる。女王の座を維持するためにも、宮澤選手ら次の世代が引き上げていくことが期待される。
最後にあらためて宮澤選手に優勝した感想を聞いてみた。
「う〜〜ん、どうなんだろう?本当に実感がない」
まるで、ファイナルが終わったばかりにも関わらず、戻ったらすぐにでも練習をしはじめそうな勢いである。
[告知]
4月1日(日) 18:30放送のテレビ朝日「ビートたけしのスポーツ大将」4時間半SPに宮澤選手、渡嘉敷来夢選手、大﨑佑圭選手、宮崎早織選手が出演!!
文・写真 泉 誠一