「ヨアソビっていいよね」。そう聞いて、けしからん! という人はちょっと古いかもしれない。いいのは「夜遊び」ではない。音楽ユニット「YOASOBI」である。その楽曲『怪物』に「僕が僕でいられるように」という一節がある。昭和生まれの小生からすれば「それは尾崎豊のものでは?」と思うのだが、ともあれ、そんなフレーズが、Wリーグのファイナルを終えたとき、ふと頭をよぎった。
トヨタ自動車アンテロープスの初優勝。馬瓜エブリンがコートインタビューで「みなさん、お待たせしました。ようやく歴史を変えましたー!」と叫んだのも無理はない。なにしろ11年間、WリーグのカップはENEOSサンフラワーズから動いていなかったのである。
歴史を動かそうと思えば、まずは個々のなかに湧き上がったものを沸点に到達させなければならない。以下、トヨタ自動車のスタメンが1年間、努力したことである。
「水島(沙紀)さんが抜けて、ディフェンスの穴が大きくなるのはわかっていたので、どうにかディフェンスでチームの力になれるよう、頑張ってきました(三好南穂)」
「3ポイントシュートの精度を上げるためにシュートフォームの改善……構えというか、細かいところを練習してきました(長岡萌映子)」
「昨シーズンの後半から少しずつ3ポイントシュートのフォームを変えてきて、今シーズンは自信をもって打てたと思います(安間志織)」
「意識してきたのはディフェンスです。特に自分の場合、ミスマッチでガードにつくとスピードで切られることが多かったので、日ごろの練習でガード陣につくときに、抜かれないように意識してやってきました(河村美幸)」
「私は波の激しいことがあったので、メンタル的にも、プレー的にも安定して、そこにいるだけでみんなに元気や勇気を与えられるようになろうとしてきました(馬瓜エブリン)」
むろん個々の課題に向き合ってきたのは彼女たちだけではない。敗れたENEOSの選手たちも、ファイナルに到達できなかった選手たちもそうしてきたはずだ。
しかし勝負には「ここぞ」という場面がある。ここぞの場面で最高のパフォーマンスを出せるかどうか。三好はENEOSのガード陣をディフェンスで苦しめたし、長岡はGAME2の立ち上がりに2本の3ポイントシュートを決めてみせた。安間はGAME1で2本の3ポイントシュートを含む20得点。河村はミスマッチになっても簡単にはドライブをさせなかったし、馬瓜は最後まで元気と安定感を失わなかった。
それらを引き出したルーカス・モンデーロヘッドコーチの手腕も大きい。
「何よりも大事なのはチーム。各自のエゴをチームに注いであげることがすごく重要です。それぞれができることをしっかりとチームに引き出してあげました」
選手たちは「私が私であるために、私になろう」とした。モンデーロヘッドコーチがそれらをひとつにまとめて、「私たち」にさせた。優勝はそれぞれの努力の結晶が、固く結びついた成果である。
トヨタ自動車アンテロープスのみなさん、優勝おめでとうございます。これで少しは夜遊びも解禁される、かな?
文 三上太
写真 W LEAGUE