「守破離(しゅ・は・り)」という言葉がある。武道や茶道の修行段階を示すもので、「守」は師や流派の教え、技などを忠実に守り、「破」は他の師や流派の教えで良いものを取り入れる。「離」は自らの流派から離れ、独自の新しいものを生み出していく。おおまかに言えば、そういうことである。この考え方はバスケットにも通じるんや。かつて、そう教えてもらったことがある。20年ほど前、当時シャンソン化粧品を率いていた中川文一監督(現・トヨタ紡織サンシャインラビッツヘッドコーチ)からである。
Wリーグのプレーオフが始まっている。6日におこなわれたセミ・クォーターファイナル、中川ヘッドコーチが率いる西地区4位のトヨタ紡織が、東地区3位の日立ハイテク クーガーズに67-44で快勝した。
思わぬ大差で敗れた日立ハイテクの内海ヘッドコーチは「シーズンを通して一番悪いゲームだった」と振り返り、キャプテンの北村悠貴は「自分たちのリズムでバスケットが展開できなかった」と続く。
その敗因に間違いはないのだが、なぜ負けるとたいてい「自分たちのバスケットができなかった」と振り返るのだろう。いや、わかる。自分たちのバスケットができなければ負けるだろう。負けに不思議の負けなしである。
しかし、あえて、一言言わせていただきたい。
そろそろ、その敗戦コメントから一歩抜け出しませんか?
考えてみたら、当然なのである。相手は対戦相手の「らしさ」を消そうと、あの手この手を講じてくる。むろん自分たちも相手の「らしさ」を消そうとスカウティングし、アジャストしているはずだ。高いレベルになればなるほど、バスケットはお互いの「らしさ」を消す戦いになる。敗因がそこに出るのは明白なのである。
しかし今や世界と肩を並べようという日本の女子バスケットである。「らしさ」を消されたときに、どう打開しようとしたのか。なぜその打開策はうまくいかなかったのか。むろん「守」を徹底し直すという策もあるだろうが、負けたら終わりのトーナメントにおいては、どこかで「破」や「離」が出てきてもいいのではないか。日本バスケットボール協会が掲げる「日常を世界に」は、そうした難題に立ち向かってこそ生まれるものだと思う。
今シーズンから日立ハイテクに加入した谷村里佳はこう言っていた。
「プレーどうこうはなく、気持ちで負けていたことが一番悔しい。そこを変えないと、変わらない。これがこれまでのハイテクなのかなと」
聡明な大黒柱はわかっている。今シーズン、躍進を遂げたチームだからこそ、気持ちなのか、戦術なのか、それとも選手層なのか、来シーズンの次なる一歩に期待したい。
14日から始まるセミファイナル、20日からのファイナルはいずれも2戦先勝方式になる。自分たちで積み上げてきた「らしさ」を守るだけ段は終わった。それを破って、離れていくところに別次元の強さはある。
ちなみに日立ハイテクに快勝したトヨタ紡織は、翌日のクォーターファイナルで富士通レッドウェーブに72-57で敗れている。
文・写真 三上太