得点王などのタイトルと異なり、数字が決定打になるとは限らないのがAWARD表彰。リーグ本家と被らない、1人の選手を複数の部門で選ばない、というのが大前提となるBBS AWARDは、その色合いがより濃くなる。2023-24シーズンのWリーグで言えば、イゾジェ ウチェ(シャンソン化粧品)は本家で選ばれた時点で新人王の対象外となるわけで、そうなると「じゃあ誰か他にいるの?」という話にもなりかねないし、だからといって該当者なしとするのも味気ない。
ただ、B3も含めると56クラブを抱えるBリーグと違って狭き門であるところは、Wリーグのデメリットの面があると思う一方、門戸が狭い分、入ってくる選手の能力は必然的に高くなるというメリットもある。したがって、選考委員が血眼になって探すまでもなく、「ウチェじゃないとすればこの人じゃないか」という選手はやはりいた。全試合に出場し、ベンチスタートは1試合だけ、アベレージ14.7得点。数字が決定打になるとは限らなくても、これだけの数字を残していれば、石牧葵は十分すぎるくらい新人王に相応しい選手と言えるだろう。
石牧にとって不運だったのは、ウチェが高卒でWリーグを選んだことだ。2022-23シーズン、アーリーエントリーで姫路イーグレッツに加わった石牧は、白崎みなみというポジションの近い絶対的得点源がいたにもかかわらず、出場12試合中10試合でスターターを務め、アベレージ11.4得点を挙げている。この事実だけを見れば、普通は「こりゃ来シーズンの新人王の有力候補だな」と思うだろう。
ところがどっこい、ウチェもアーリーエントリーでシャンソンに入り、しかもたった14試合の出場でリバウンド王のタイトルを獲ってしまった。改めてルーキーとして迎えた2023-24シーズン、白崎がチームを去ったことで石牧の存在感はさらに増し、すっかりチームの要になったが、ウチェがいたために本家の新人王は獲れなかった。もちろん、ウチェには何の非もない。彼女は別格だった、ただそれだけの話であり、だからこそBBS AWARD はベスト5に選んだのである。
いずれにしても、石牧がルーキーシーズンに残したインパクトが色褪せることはない。我々が新人王に選ぶことで、石牧本人や家族、友人、ファンの方には、本家で選ばれなかった無念(と本人が感じているかどうかは別として)を少しでも晴らしてくれれば良いし、選考委員となってまだ3シーズン目の筆者が偉そうに言うことでもないが、BBS AWARD が存在する価値はそんなところにもあると思っている。
トヨタ紡織で迎える今シーズンは、新たな環境で真価を問われることになるだろう。同じように姫路からシャンソンに移籍した白崎と比較されることもあるかもしれない。そんな中、BBS AWARD は金一封が出るわけでもないが、選ばれたことをささやかながらでも名誉に感じていただき、その真価を証明するためのモチベーションの1つにしてもらえれば幸いである。
文 吉川哲彦
写真 W LEAGUE
「Basketball Spirits AWARD(BBS AWARD)」は、対象シーズンのバスケットボールシーンを振り返り、バスケットボールスピリッツ編集部とライター陣がまったくの私見と独断、その場のノリと勢いで選出し、表彰しています。選出に当たっては「受賞者が他部門と被らない」ことがルール。できるだけたくさんの選手を表彰してあげたいからなのですが、まあガチガチの賞ではないので肩の力を抜いて「今年、この選手は輝いてたよね」くらいの気持ちで見守ってください。
※選手・関係者の所属は2023-24シーズンに準ずる。