C:赤穂さくら(デンソーアイリス #12)
フロントコートの選考に悩んだと書いたが、実は比較的早い段階から名前が挙がっていたのがさくらだった。「今年のさくらちゃんはよかったよ」、「よかったですよねぇ」と、ほぼほぼ満場一致。ただ、スタッツを見ると、突出した結果を残しているわけではない。プレータイムが昨シーズンよりやや減っていることもあるが、1試合平均の得点、アシスト、リバウンドは数字を下げている。これまた大変失礼かつ、大きなお世話だが、つい比較してしまう妹・ひまわりとのスタッツを見ても、それらすべてで下回っている。
しかし、以前、当方がまだフリーペーパーとして出していた頃に話を聞いたとき、さくらはひまわりのことをライバルだと思ったことはないと言っていた。そもそもポジションが違うからというのがその理由だが、そう考えると、スタッツがひまわりより下回ろうとも、さくらはさくらで、デンソーのセンターとして、自らの役割を遂行したのだろう。数字には表れないかもしれないが、その印象、インパクトが、おじさん選考員をして「よかった」という評価になったのである。
もちろん、数字にだって表れているところはある。ブロックショットは昨シーズンよりも増えているし、フリースローも例年どおり安定しており、2022-23シーズンは90.7%で1位を獲得している。ディフェンスの注意がひまわりや髙田に向けば、その分、さくらにチャンスが生まれる。けっしてスピードのあるプレーヤーではないが、うまく合わせて、シュートモーションでのファウルをもらう。フリースローで得点をつながれることは、デンソーとしても大きな価値があるし、相手としては流れに乗り切れないことにもなりうる。
またフリースローの精度の高さは、エルボーあたりからの正確なジャンプシュートにもつながっている。ショートコーナーも然り。「卵が先か、鶏が先か」問題にもなりかねないが、少なくとも、さくらはシュートがうまい。ひまわりや髙田のアタックを止めたと思ったときの、さくらの一撃。相手チームのダメージは大きく、チームは勢いづく。
コート以外では、さくらはひまわりを大きく上回っているように思える。SNSでの妹と弟への愛ある発信、特に弟・雷太への公開伝言は、さくらという、赤穂家の長女としての存在感をはっきり示すものである。それさえも評価の対象になるのがスピリッツ的ベスト5である。その弟は姉から離れるように秋田へと向かったが、姉弟愛に約760キロの距離は関係ない。指先ひとつでやりとりは可能なので、今シーズンもぜひ雷太へ、愛のある伝言を送ってください。それを楽しみにしている当方です。
ただ、1点、彼女に注文がある。選考の最中、あれだけ「さくらちゃんはよかったよねぇ」と言っていたおじさんが、突然「え、どっちのさくら? 赤穂? 野口?」と言い始めた。これはよくない。2023-24シーズンはぜひ「『さくら』といえば赤穂でしょ」と思わせるくらいの活躍をお願いしたい。もちろんアイシンウィングスへの移籍が決まった野口さくらの活躍も期待している。うーん、次のシーズンは「Wさくら」で何かの賞を授けられるよう、“さくら” には頑張ってもらいたい。ひまわりもね。
文 三上太
写真 W LEAGUE
「Basketball Spirits AWARD(BBS AWARD)」は、対象シーズンのバスケットボールシーンを振り返り、バスケットボールスピリッツ編集部とライター陣がまったくの私見と独断、その場のノリと勢いで選出し、表彰しています。選出に当たっては「受賞者が他部門と被らない」ことがルール。できるだけたくさんの選手を表彰してあげたいからなのですが、まあガチガチの賞ではないので肩の力を抜いて「今年、この選手は輝いてたよね」くらいの気持ちで見守ってください。