試合後の池田コーチの声はいつになく細く、小さかった。U16女子日本代表候補に選ばれるようなルーキーが3人も入り、それとは別に高木という、池田コーチが認めるポイントガードが入ってきたことで、インターハイ出場は十分に狙えると思っていた。「やり直しは必要ないだろう」と思っていたというから、それだけの自信もあったのだろう。それだけに「やり直しをせざるを得ないよね」という言葉に悔しさが隠しきれない。
3位決定戦では3強の面目は保ったが、それで満足する池田コーチでもない。冬への巻き返しがどうなるのか。3強の壮絶な争いはまだ始まったばかりである。
「先輩たちをインターハイ連れていこうと、この大会に臨んだんですけど、昨日の準決勝で負けてしまって……自分も昨日は退場するなど全然うまくいかなかったんですが、#4 東(紅花)さんたちに声をかけてもらって、今日は切り替えてやろうと。冬に向けて……冬は絶対優勝できるようにしていきたいと思います」
準決勝ではファウルアウトをしてしまい、終盤、精華女子タイウォにマッチアップすることさえできなかった福岡大学附属若葉の1年生センター、鈴木は大会をそう振り返る。センターといっても177センチである。県内はもちろんのこと、全国に出ていこう、U16女子日本代表として世界にも出ていこうと思えば、もはやセンタープレーだけでは通用しなくなる。そのことは彼女自身もはっきり理解している。
「冬に向けては、ディフェンスの面ももちろんですが、昨日はシュートが全然決まらなかったので、ドライブだけではなく……もちろんドライブも狙うんですけど、3ポイントシュートも決められるようにして、チームの勝利に貢献していきたいと思っています」
鈴木が四日市メリノール学院中学(三重)時代から名を馳せた、いわゆる有名プレーヤーだとしたら、日章学園中学(宮崎)から福岡大学附属若葉に入学した高木は、無名プレーヤーだと言っていい。しかし池田コーチは高木のプッシュする力と攻撃力、出足の鋭いディフェンスを高く評価している。歴代卒業生を見ても、ポイントガードがよかったときは全国大会でも一定の成績を残している。そう考えている池田にとっては、“掘り出しもの” といってもおかしくないほどのポイントガードというわけだ。
とはいえ、まだ1年生。ほんの3か月前まで中学生だった彼女が、福岡県の3強の一角で、いきなりスタメンの司令塔を任されるのは、けっして軽くない荷である。しかし彼女は精華女子に対しても、3位決定戦の筑紫女学院に対しても物怖じすることなく、今ある彼女のすべてをぶつけているようだった。
「東さんたちが『思いきりやっていいよ』と言ってくれるので思いっきりできますし、中学のときはセンターがいなくて、パスをあまり出してなかったんですけど、鈴木さんたちがアドバイスくれたりするので、そこは思いっきりできています」
チームメイトの存在が、彼女を彼女らしくプレーさせているということだろう。もちろん不安定さは残る。ただそれも1年生ゆえの伸びしろと考えると、その可能性に賭けたい池田コーチの思いにも理解はできる。
大会を3位で終えた高木が言う。
「昨日の準決勝では、自分がイージーシートを外したり、ボールマンにプレッシャーかけずに、留学生に簡単にボールを入れさせてしまいました。ボールマンにもっとプレッシャーをかけなければいけないし、3ポイントシュートの確率もまだまだだと思ったので、もっと克服していきたいと思います」
鈴木、太田、そして #13 猿木心和がU16女子日本代表候補に名を連ねているが、4人目の高木も実力的にはけっして引けを取らない。もちろん東をはじめとする上級生の力は必須だが、こうした若い力の台頭もまた、バスケ王国・福岡を支えている。
インターハイ2023の福岡県予選を見て
(1)バスケ王国だからこそのファイナル
(2)今はまだ甘んじていても
文・写真 三上太