上級生たちから可愛がられたロードプリンスはすぐにチームに溶け込み、日本に来て1年足らずの留学生とは思えないほどゴール下で身体を張り、臆することなくルーズボールに飛び込んだ。聞けば開志国際のバシール ファイサル モハメッド(3年)とはナイジェリアの中学で一緒にバスケをしていたという。「それだけに先輩に負けたくないという気持ちが強かったみたいで、試合前から気合が入っていました」(金本監督)。ファウルトラブルに苦しみながらもよく我慢してゲームハイとなる23リバウンドをマークしたのも「このチームで勝ちたい」という強い気持ちの表れだろう。そして、その気持ちは仲間たちにも伝わる。試合終了後、「赤間選手のシュート力は警戒していたが、他の選手のシュートも本当によく入った。加えてロードプリンス選手のリバウンドも予想していたよりずっと強かった。今日の試合は拾った勝利。藤枝は最後まで粘り強くすばらしいチームだったと思います」と、語った開志国際の富樫英樹監督の言葉は、この一戦だけではなく、2回戦で国学院久我山を3回戦で桜丘をそれぞれ撃破し、準々決勝で前年の覇者福岡大附属大濠を打ち勝った今大会の藤枝明誠を称えているようにも感じられた。
金本監督が指導者として追いかけてきた父の博さんは63歳の今も宮崎県立宮崎工業高校バスケット部の特別顧問を務める。ウインターカップ県予選の決勝で小林と延長戦にもつれ込む死闘を演じた宮崎工は3点差で涙を飲んだが、その一戦をネット配信で見ていた金本監督は「もしかすると親父と一緒にウインターカップに行けるかも」と胸が躍ったそうだ。願いは叶わなかったが「同じ高校指導者としてお父さんの背中がぐっと近くなったと感じたのではないですか?」と尋ねると、「いやいや、まだまだです」と首を振りながら笑った。
鹿屋体育大学時代から掲げてきたチーム作りのスローガンは『愛されるチームなれ』。周りの人から愛され、見る者が応援したくなるチームはどんなチームなのか。これからも選手たちとともに追求していきたい。みんなで成長して、みんなで強くなろう。金本監督が「愛しい奴ら」と呼ぶ3年生を送り出し、彼らが残してくれたものを糧とし、新しい藤枝明誠がスタートする。その季節はもうすぐだ。
文 松原貴実
写真提供 日本バスケットボール協会