「颯太さんはまだチーム練習には絡めず1人でシュート練習をしていたんですが、見ていると1本も落とさないんです。1本も!ですよ。やっぱり世代ナンバー1と言われる選手は違う。これがプロに行く選手のレベルなんだなあと思いました」
自分が望んで入学したにも関わらず、夏が過ぎても「本当にここでやっていけるんだろうか」という不安は消えなかったという。だが、そんな小林の耳に届いたのは母校の村野工が兵庫県予選を勝ち抜き、初めてのウインターカップ出場を決めたというニュース。「ものすごく勇気づけられました。自分もこのままじゃいけないという意識が芽生えたのはそのときです。苦手なディフェンスをはじめ、すべてに人一倍頑張ろうと自分に言い聞かせました」
昨年のチームから主力がごっそり抜けた東海大は3月の新人戦で1回戦負け。続くスプリングトーナメントでも中央大に完敗。8強入りも叶わなかった。選手たちの耳にも「今年の東海大は強くない」という声が聞こえてくる。
「結果を残せていないからそう思われても仕方ないかもしれないけど、自分を含めみんなはそう思っていません。東海大のバスケをやり通すことでチームは必ず強くなれると思うし、秋のリーグ戦を戦いながら力を付け、インカレ優勝を目指します。それができるチームだと信じています」
だからこそ自分もまた優勝を目指すチームに貢献できる選手になりたい。同期のハーパージャンローレンスジュニアを始め先輩にも有力なガードが揃う中で、「プレータイムを得て存在感を示していくこと」が今後の目標だ。そんな小林が笑って打ち明けてくれたのは「実は自分、メンタルがめっちゃ弱いんです」ということ。ためらわずに放つ強気のシュートからはにわかに信じ難い “告白” に「えっ?」と聞き返すと、今度はまじめな顔で「本当なんです」と答えた。大事な試合前には食事がのどを通らなくなり、『メンタル弱小キャラ』としてみんなにいじられているそうだ。
「おんなじようなヤツがいたら自分でもいじる(笑)。たしかに3月の新人戦でも劣勢になるとすぐ弱気になってました」
しかし、今大会は違った。劣勢のときほど自分のシュートで流れを変えてみせると思った。強気で挑んでこそ自分の力は発揮できるのだと知った。
今大会の小林の活躍を見た木村真人コーチからは「チキンがようやく羽ばたいた」と言われたらしい。羽ばたいたチキンが得たものはおそらく大きな自信だろう。そして、ものにした自信は小林の “チキンハート” を変えていくはずだ。
終盤接戦に持ち込みながら勝ち切れなかった試合について「まだまだ課題が残りますが、最後まであきらめなかった選手たちの姿勢は評価してやりたい」と語った陸川監督。あきめなかった選手の筆頭には強気でゴールに向かった小林の姿がある。手に入れた自信を1つの武器としてここからまた一歩。新生東海大の貴重なワンピースになるべく「さらなるステップアップを目指します」と言い切った小林にはもう “チキン” とは呼べない頼もしさがあった。
文 松原貴実
写真 泉誠一