留学生を擁するチームとの対戦を重ねてきたことは、良い意味での開き直りも生んだ。「点を取られるのは仕方ない。その分、点数を取り返そう」という後藤コーチの考えがチームに浸透し、毎試合100点を取ることを目標にオフェンス重点の練習を積み重ねて選手たちは思い切りの良さを培ってきた。「空いたら打て。迷うな」という後藤コーチの言葉の通り、否が応でも緊張するはずの全国初戦で選手たちは一瞬のノーマークを見逃さずにシュートを打ち、それを40分間徹底。確立された北越のスタイルが、大きな相手にも気後れしない強いメンタルを作り上げたということも言えるだろう。
また、今大会は北越にとって、そして後藤コーチにとっても特別な舞台であった。その理由の一つはもちろん、同校OBでもある後藤コーチ自身が母校に勝利をもたらしたという事実。まずそのことに、後藤コーチは安堵した。
「歴史を変えることができ、コーチとして携われたことを幸せだなと感じますし、プレッシャーもあったので勝たせてあげることができて本当に良かったです。卒業生も応援に来てくれましたし、いろんな方にこういう姿を見せて恩返しもできました」
理由はそれだけではない。後藤コーチは現在33歳。北越が大会初出場を果たしたのは、何の因果か後藤コーチが生まれた年だったのである。そして、西巻の実父がその33年前に北越を初の大舞台に導いた主力選手だったことも、少なからぬ縁を感じるところ。後藤コーチが「運命的なものを感じます」と感慨深い表情を浮かべるのも当然のことだ。
県内で苦杯を喫してきた留学生のいるチームに対し、初勝利を挙げたのが全国の舞台。その事実はチームにとっても、後藤コーチにとっても自信になった。2回戦の相手は、いち早く留学生を招き入れて全国制覇を幾度も勝ち取ってきた福岡第一。最高難度の相手であることは間違いないが、後藤コーチは「北越のバスケットがどこまで通用するか、思い切ってやれれば良いと思いますし、最後まで表現してほしいと思います」と選手たちに期待を寄せる。どんな相手であろうと、北越は恐れることなく強気な姿勢で立ち向かい続ける。
文 吉川哲彦
写真 日本バスケットボール協会