残り時間は29秒。最後のオフェンスに懸ける大東文化大学が自陣へと攻め上がる中、深渡瀬が足を痛めて時間が止まる。残り13.5秒、ショットクロックは10秒。仕切り直しのラストチャンス。2点を追いかける大東文化大学は無理に逆転を狙わずに、「同点でも良い」と西尾監督は中村に告げた。
「自分が責任を持って決め切ろう」
覚悟を決め、自らを奮い立たせて、中村がゴールへ向かう。大倉のディフェンスをかわし、利き腕とは異なる左手でボールを放った。しかし、ゴール下で守る八村の高さに阻まれ、ここで万事休す。勝利を確信した佐土原が、時間を流すように代々木体育館の天井に向かってボールを放り投げた。63-65、たった2点が勝敗を分け、大東文化大学の2回戦敗退が決まった。
終了を告げるブザーとともに、大東文化大学の選手もコーチも涙を流す。「一時は点数が離れたけど諦めることなく、ディフェンスからというチームの一番の強みを出してくれた。大倉君が最後にしっかりシュートを決めたが、本当にどっちが勝ってもおかしくはないゲームであり、負けはしたが悔いはない」と西尾監督は言い、大東文化大学は全てを出し切った。
ラストシュートについて、「今の実力だと率直に感じました」という中村は、4年生への思いを明かす。
「3年生の自分が試合に出させてもらっているのに、最後に勝たせ切ることができなかったことは、このチームに対して申し訳ないです。それ以上に、ベンチにいた4年生の石川晴道さんや応援席にいる4年生たち、試合に出ていた4年生もそうですし、先輩たちを勝たせることができなかったことが、自分の中で一番悔しいです」
重責を負って勝負した中村に対し、「今シーズンに関しては外からのシュートのアテンプトもかなり上がってきているので、来シーズンはさらに楽しみ」という西尾監督は期待しかない。4年生たちも中村をはじめ、残る後輩たちにこの悔しさを託すだけである。試合を終えた後、中村はすぐさま来年へ向けてリベンジを誓った。
「大東は下級生が多く出ているチームなので、来年も主力になる選手は多いです。もう一度、団結力をチームのモットーにして、春のトーナメントから結果を出せるように、今から良い準備をしていきたいです。最上級生になるので、第一にチームのことを考えて、もっともっと余裕のあるプレーをしなければいけないし、まわりに信頼されるようなポイントガードに来年はなりたいです」
中部第一高校出身の中村と、福岡第一高校出身の河村は、高校時代から大舞台でマッチアップしてきたライバル同士。関東の大会での対戦はあったが、インカレはこれがはじめて。お互いに12点を挙げる活躍だった。
「今までやられてきてばかりだったので、負けたくはないプライドはもちろんある」という1つ年上の中村。
「ドライブからのプッシュパスや、勝負どころのシュートは本当にすごく、自分も見習う部分があります。でも、相手を抜く力などは、河村に負けていない自信もあります。リスペクトをしつつも、負けたくはないという気持ちはずっとあります」
「お互いに成長した姿を見せられるように戦っていた」という河村は、「中村選手はガードとしての役割を遂行していたり、良いところで3ポイントシュートを決めたり、すごく成長をしていると感じました。上から目線のような言葉になってしまうけど、ずっと一緒に戦ってきたからこそ、うまくなっているなと感じました」と認め合い、そして切磋琢磨している。そんな2人のマッチアップは見ていて楽しく、大学では来年が最後となってしまうが、まだまだドラマがありそうだ。もちろん、特別指定選手として、Bリーグでこの続きが見られることにも期待したい。
早くも今シーズンが終わってしまった大東文化大学。予定が空いた状況に対し、「すぐに練習します」と中村は即答し、新シーズンへ向けた準備をはじめる。
文・写真 泉誠一