木下が放ったラストシュート
インカレが近づくと、ゲームライクな練習が増える。東海大の練習ゲームは通常、青・白・赤の3つのチームに分かれて行われる。青はスタメン。白はセカンドメンバー、そして赤は1、2年生を主体としたメンバーだ。木下は4年生ながら赤チームに入り、下級生を引っ張る役割を担った。赤チームは対戦相手の特徴を真似た〝仮想敵チーム〞として青チームや白チームと戦う。「木下を中心とした赤チームがどれだけ全力でぶつかってくるかが本番へのカギとなります。その点うちの赤チームはすごかった。僕たちスタメン組が負けてしまうこともあったほどです」(津屋)。とはいえ、一発勝負のトーナメント形式のインカレでは赤チームメンバーの出番は少ない。それでも木下は常に大声で下級生たちを鼓舞し全力でコートを走った。青・白・赤、どれを欠いても強い東海は生まれないという木下のプライド。「対戦相手になってくれる赤チームの存在は本当に大きかった」(西田)、「赤チームを牽引する164cmの碧人がいつも大きく見えた」(津田)。
その木下が大学最後のコートに立ったのは、12月13日、筑波大との決勝戦4Q残り30秒。スリーポイントラインの後ろからシュートを放ったのは残り4秒だった。きれいな弧を描いてボールがリングに吸い込まれた瞬間、木下の顔には弾けるような笑みが浮かび、ベンチの下級生たちは総立ちになって飛び跳ねた。泣いていたのは西田と津屋だけ。「いや、もう碧人のシュートが決まった瞬間、ウルッとしてしまって…」(西田)。「そうなんですよ。自分は優勝しても絶対泣かないと決めていたのに、横を見たら優大が泣いてて、それを見たとたん自分も泣けてきて」(津屋)。泣きながら津屋の頭にはこれまでの1年間の出来事が一気にフラッシュバックしたという。「苦しいこともたくさんあったけど、なんだろう。1番最初に浮かんだのは寮のミーティングルームなんですよ。みんなで練習の動画を見ながらワイワイやってる場面。自分はあの時間が本当に好きだったんだなあと思います」
後輩たちとハグをし、何度も握手を繰り返し、最後に西田と木下の肩を抱く。泣かないと決めていたのに、笑って終わるつもりだったのに、気がつけば津屋は西田と木下に挟まれて4年間で1番うれしい涙を流していた。
インカレ2020・男子決勝:東海大学vs筑波大学
鍛え抜かれたディフェンスを武器に東海大が王者奪還
文 松原貴実
写真 泉誠一