第72回全日本大学バスケットボール選手権大会(インカレ)の女子決勝は、昨年と同じ東京医療保健大学vs白鷗大学が対戦し、昨年と同じ結果に終わった。関東大学女子リーグ戦では1点差で敗れた東京医療保健大学だったが、日本一を決める決勝戦では73-50で白鷗大学を圧倒し、4連覇を達成した。
恩塚亨監督は「ディフェンスが素晴らしかった」と勝因を挙げる。第3クォーター残り1分30秒に43点目を決めた白鷗大学だったが、次に得点を動かすまでに約6分を要した。後半の20分間で17点しか獲れず、第1クォーターで挙げた18点を下回る。「外からのドライブをシャットアウトされてしまった。何回も続けてペイントタッチしながら攻撃するよう指示していたが、そこがつながらなかった」と白鷗大学の佐藤智信監督は言い、東京医療保健大学のディフェンスに苦しめられた。
経験浅い選手たちを成長させた指導方針の変化
ディフェンス時のエネルギー発生源について、「なりたい自分を思い描き、それをコートで発揮することで、『チームを救うスーパーヒーローになれる』というマインドで5人が戦ってくれたからです」と恩塚監督は言う。関東大学女子リーグ戦での2戦目、9月22日に行われた日本体育大学戦を82-72で競り勝った後、「選手たちが楽しそうではなかった」ことに疑問を抱いた。
「なんのためにバスケットをやっているのだろうか?」
それまでは「理解させ、納得をさせ、選手たちにとってはやらなければいけない」指導法だった。しかし、日本体育大学戦を機に思い切ってその方針を変化させる。「自分たちがなりたいスーパーヒーローになるために、どこまででもやろうというマインドで試合に臨めていたことが大きかったです。それによって、時間が経過していく中で点差につながっていったのではないかと思います」と、選手たち自身から表現していった結果である。
永田萌絵(トヨタ自動車アンテロープス)、岡田英里、藤本愛妃(ともに富士通レッドウェーブ)、平末明日香(トヨタ紡織サンシャインラビッツ)ら昨年の4年生は、すでにWリーグで活躍するほどインパクトがあった。「去年、優勝した翌日に、自分たちが優勝できるとは思っていなかったところからのスタートでした」と恩塚監督は明かし、残った選手たちは連覇へのプレッシャーと不安しかなかった。今年のキャプテンである崎原成美は、「どうやってチームを引っ張って行けば良いか悩んだときもありました」。昨年のインカレ決勝のコートに立った経験の持ち主は5人(崎原、赤木里帆、木村亜美、パレイ のりこ、ジョシュアンフォノボ・テミトペ)しかおらず、10分以上出場したのはインサイドのテミトペとパレイだけだった。今回の先発メンバーのうち、2年生の伊森可琳と1年生の岡本美優にとっては、これがはじめてのインカレ決勝の舞台でもあった。
それでも選手たちに自信をつけ、成長させたのが恩塚監督の変化である。
「なりたい自分を思い描いて、そこに向かって行く気持ちで、ダメだからがんばろうではなく、こうなりたいという選手の内側から沸いてくる思いを大切にしたことが、一番伸びた理由だと思っています」
これまでは一つひとつのプレーに対して、コートサイドから事細かく指示を出していたが、今年の選手たちは自ら考えて動けるようになっていた。
決勝へ向かう前、「とにかく一人ひとりが自信を持って、チームメイトをお互いに信じ合って、どんな困難があっても必ず優勝できる強い信念を持って行こう」と崎原は声をかけ、スーパーヒーローになるためのスイッチを入れる。選手たちの不安や経験不足を自信で凌駕し、最高の結果を得ることができた。