── 今はBリーグの特別指定選手としてプロの世界を経験する選手も増えました。その中で大学でバスケットをやる意味を問う声もあります。バスケットにおける大学の存在意義はどのようなものだとお考えですか?
先ほども言いましたが、大学はバスケットだけではなく人生について学び、考え、土台を作る場だと思うんですね。4年間のうち上に3年、下に3年と考えると7年ぐらい縦のつながりを持つことになります。このつながりはバスケットだけじゃなく、同級生とか、他のクラブ、サークルの子とか、いろいろです。東海大は柔道部もバレー部もラグビー部も強いですし、日本代表の選手もいます。ここでつながって仲間になったりすることでまた自分の世界、視野が広がる。(田中)大貴なんかは今も柔道の羽賀龍之介なんかと会を作ってご飯を食べたりしてるみたいです。それはきっと自分にとって励みになるだろうし財産にもなると思うんですね。有力選手なら(大学に行かず)すぐプロになればいいというのも1つの考えでしょう。日本の大学に行くならアメリカに留学した方がいいというのもよく耳にする意見です。それは人それぞれ。どちらも否定はしません。ただ、なんの利害関係もなく、20歳を過ぎた大人が仲間のために頑張り、仲間のために泣くことができるのが大学スポーツです。純粋な意味でそういう時間が持てるのはこの4年間だけかもしれない。バスケットのスキルを付けるだけではなく、友情と絆を作り、それを生涯の財産にできるところに大学の意義があると私は考えています。
── 学生スポーツは毎年メンバーが変わります。4年間苦楽をともにした選手たちが巣立っていくのは寂しくありませんか?
毎年、卒業式前には4年生と食事に行き、その後うちに呼んで飲み会をするのですが、それが終わると「ああ、あいつらも卒業していくんだなあ」と一抹の寂しさは感じます。しかし、すぐに新入生がやってきて、また新しいチームが始動するんですね。だから、ずっと寂しがってる暇はないんです(笑)。今年はどんな戦力で、どんなチームになりそうだとか考えることがいっぱいあります。うれしいのは卒業した選手たちがずっと『東海大』を気にかけてくれていること。私が監督に就任した年の選手たちは今も試合の応援に来てくれます。あのときはあんなことがあった、こんなこともあったと、少々老けた息子たちと笑いながら思い出話をする。そんなとき、私は幸せだなあって思うんですよ。
バスケットボール温故知新 陸川章
勝っておごらず、負けてくさらず
part1「走ることに明け暮れた少年が高校で出会ったバスケット」
part2「『元気』を買われて大学選抜から日本代表へ」
part3「1番下手な選手として自分がやるべきことはわかっていた」
part4「東海大の監督に就任し、最初に掲げた目標は『インカレ優勝』」
part5「大学はバスケットと生き方の土台を作る場所だと思う」
文 松原貴実
写真 吉田宗彦