part4「東海大の監督に就任し、最初に掲げた目標は『インカレ優勝』」より続く
陸川の口から選手を否定する言葉を聞いたことは一度もない。選手についてコメントを求めると必ず“長所”から語る。巣立っていった卒業生たちの成長を見るのは何よりの喜びだ。秋田の中山拓哉、SR渋谷の石井講祐、関野剛平、川崎の大塚裕土…「みんな大学のときよりうんと伸びてチームに不可欠な存在になっている。努力したんだろうねぇ」と頬が緩む。取材中にスタッフの学生がコーヒーを運んで来てくれた。「おっ、ありがとう」。お礼を言おうと思ったら陸川に先を越された。部屋を出る学生の背中に向かって、もう一度「ありがとなぁ」── 何気ないその一言に彼と選手たちの日常が見えたような気がした。
大学はバスケットと生き方の土台を作る場所だと思う
── 東海大の選手たちは「24時間ルール」や「フルフルワクワクするバスケット」という言葉をよく口にします。これはどういったところから生まれたのでしょう。
『24時間ルール』というのはNFLマイアミドルフィンズの監督をしていたドン・シュラが書いた本から取りました。本の中に『勝ったら喜び、負けたら苦悩を味わえ。ただし24時間過ぎたら次の準備をしなさい』という一文があるんですね。勝っても負けても24時間過ぎたら次に向かおうというのを『24時間ルール』と名付けました。けど、これって昔ばあちゃんが言ってた「勝ってもおごるな、負けてもへこむな」っていうのに通じるものがあるなあ、うちのばあちゃんならNFLの監督を出来たなと思いました(笑)。あと「フルフルワクワクするバスケット」というのは、能代工の大将がきっかけでできた言葉なんです。
── 能代工バスケット部の初代監督の故加藤廣志先生ですか?
はい、そうです。もう15年ほど前になるかと思いますが、私が能代カップに行ったときのことです。大会後、教え子の小野秀二さんが当時見ていたトヨタをリーグ優勝させ、内海知秀さんがJXを優勝させ、鈴木貴美一さんが天皇杯でアイシンを優勝させたお祝いのパーティーがあり私も出席しました。その後の二次会で、大将が「今、高校バスケの会場はいつも満員だ。JBLは田臥(勇太)の人気で盛り上がっている。それに比べて大学はどうなっているんだ。どうしたらいいか、陸川答えてみろ」と言われたんです。いきなり大声で名前を呼ばれてびっくりしていると、大将が「いい、俺が代わりに言う」と立ち上がり、私を見て「いいか、見ている人をフルフルさせるんだ」と叫ぶように言われたんですね。その瞬間、ああ自分は大将のこの言葉を聞くために能代に来たんだと思いました。見る人をフルフルさせるのはどんなプレーなのか、ワクワクするにはどんなチームを作ればいいのか、ずっと考えながら帰りました。東海大に戻り、真っ先に選手たちに言ったのは「みんなでフルフルワクワクするチームを作るぞ」です。それがいつしかチームの合言葉になりました。