表彰式も大詰め、最後に発表された最優秀選手賞に自分の名前が呼ばれたとき、牧隼利は「あれ?」というようにわずかに首をひねった。「自分の中ではMVPは増田(啓介)かな?と思っていたので、ほんとに俺でいいのかなって」。喜びはその後ゆっくりと沸き上がってきた。
キャプテンの重責を担ったこの1年は“目指すリーダー像”について模索する1年でもあった。「自分は背中で引っ張るタイプでもないし、圧倒的な存在感でチームをガチっとまとめられるわけでもない。キャプテンとしてこのままじゃいけない、どうすればいいんだろうと考え続けていたような気がします」
強豪校で知られる福岡大付属大濠高校出身。在学中はインターハイ、ウインターカップと全国の舞台を踏んだが優勝の経験はない。「筑波に入って1年目に力のある先輩たちのおかげで優勝を経験しましたが、自分は役に立っていないし、少し試合にからめるようになった2年のときは準優勝。上級生になってチームを牽引していく立場になった去年は4位。それだけにキャプテンを任された今年はなんとしても優勝したかったです」
しかし、「まず春から」と意気込んだトーナメントは準優勝したものの、続く秋のリーグ戦は5位で終了。「インカレのシード権がかかったリーグ戦で負けがこんだ時期は本当に辛かったです。最終戦となった白鷗大戦では劇的な逆転負けを食らったし、1か月後に控えたインカレのことを考えると不安になる自分がいました」。だが、そんな牧の救いとなったのは「このチームを支えるのは自分1人だけじゃない」という思いだ。4年生で集まって、どうやって下級生たちを引っ張っていけばいいのか、自分たちが見せるリーダーシップとはどういうものなのかを何度も話し合った。中でも「性格も全然違うし、普段はフラフラした自由人って感じなのにコートに入ると本当に頼りになる」という増田は、高校から7年間同じコートに立ってきた相棒。正直に自分の気持ちを語ることで次第に『自分ができる自分なりのリーダー像』が浮かび上がってきたという。「もともと僕は性格的に(人に)怒ることが苦手なんです。優しいと言ったら聞こえはいいけど、下級生にきついことも言えない自分にコンプレックスがありました。でも、足りないと感じたことを指摘するのは4年生の役目。それをちゃんと言葉にしよう。言葉にした責任はコートの上で誰より頑張ることで果たそう。どんな場面でも強い気持ちを発信していくことが自分のリーダー像だと思ったんです」。
そして、それから1カ月を経て迎えたインカレ。一戦ごとにチームが一つになっていく姿に、牧は自分が発信しているものが少しずつ伝わっている手ごたえを感じていた。大会の山場となったのは準決勝の大東文化大戦。今年のリーグ戦の覇者を相手に回したこの一戦は互いの持ち味を消し合うようなディフェンスの応酬が続いた。「今までのうちだったら、どこかで気持ちが切れていたかもしれない」という重苦しい展開の中、最後まで我慢し続けた筑波大は「自信につながる勝利」を手にする。スコアは60-58。決勝点となったのは残り2分に放った牧の3Pシュートだった。