見ていてワクワクする選手だ。2回戦で敗れた神奈川大2年生の小酒部泰暉は、ああもっと見たかったなと思わせる選手だった。昨年1部に自動昇格した際、幸嶋謙二監督は「リーグ戦ではひょっとしたら1勝もできないのではないかという不安がありました」と語るが、終わってみれば8勝14敗で12チーム中9位。もぎ取った8勝には小酒部の頼もしい成長があった。それを顕著に示しているのはリーグ戦の個人ランキングだ。得点部門4位(392点)、3ポイント部門7位(40本)、リバウンド部門10位(155本)、出場時間に至っては同じ神奈川大の4年生工藤卓哉に次いで2位。
「去年はベンチスタートだったんですが、今年はスターターとなってよく頑張ってくれました。オフェンスを注目されがちですが、実はディフェンスもかなりいい。リーグ後半に得点が落ちたのは、相手のエースとマッチアップさせたことも要因の1つだと思います。本人にも『これからはおまえがうちのエースだぞ』と言っていますが、それに応えるように着実に成長していますね」(幸嶋監督)
高校までは全く無名の選手だった。神奈川県の最西端、本人曰く「もうちょっとで静岡県になる」山北町で生まれ、「姉ちゃんがやってて、見に行ったら楽しそうだったから」という理由でバスケットを始めたのが小学3年生のとき。やればやるほどバスケットが好きになったが、中学、高校を通して全国大会への出場は夢のまた夢だった。当時はボール運びからインサイドプレーまでなんでもこなすオールラウンダーで、「ちっちゃな大会だったから」と前置きしながらも「中学の最多得点は54点、高校は52点です」と明かしてくれた。しかし、山北高校の最高成績は県大会1回戦突破。それもたった1度だけだ。「バスケットは大好きだったけど、自分が将来プロになるとか、なれるとか、考えたこともなかったです」
だが、そんな小酒部のプレーを初めて見たとき、幸嶋監督は大きな衝撃を受けたという。「彼が高校2年のときでした。身長は180cmぐらいだったと思うんですが身体能力が高く、とりわけジャンプ力がすごかった。ゴール下でバァーンと跳ぶ姿を見て、あっ、この子はダイヤの原石だと思いました」