昨年のインカレで、東京医療保健大学は日本一にはじめてたどり着いた。今年のキャプテンは、チャンピオンチームを引っ張るはじめての存在となる。「トーナメント(※春に行われる関東大学女子選手権)も結果を残せず(5位)、リーグ戦(※秋に行われる関東大学女子リーグ戦)も結局負けてしまい(3位)、すごく苦しいシーズンでした」という若原愛美キャプテンの双肩には、重圧と重責がのし掛かっていた。
恩塚亨ヘッドコーチは、「実際にコートに立つ4年生は若原だけであり、リーダーシップを発揮しようにもなかなか一人では大変な時期もあったと思います。(女子日本代表アシスタントコーチとして)僕が不在だったことで相談に乗れないこともあった中で、本当によくがんばってくれました」とチームを正しい方向へ導いてくれたキャプテンに感謝する。
インカレ決勝戦へ向かう前、最後のミーティングで恩塚ヘッドコーチは「若原を胴上げしよう!」と提案した。自然と選手たちのモチベーションが高まる。「常に一生懸命であり、いつも声をかけながらみんなの気持ちに寄り添い、元気を引き出してくれる」存在である若原キャプテンのために──今シーズン最高のチームワークで頂点へと突き進んでいった。
東京医療保健大学の強さについて、若原選手は「組織力」を挙げる。「バスケはチームスポーツであり、個人個人がすごくてもチームとしてひとつになっていなければ勝てません。個人能力は低いですが、チーム力は一番だと思っています」。その強みを引き出したのも、若原選手のキャプテンシーであり、試合には出られなかった「他の4年生たちがサポートしてくれました」。主力となる下級生たちも、「チームが良くなるために発言してくれたおかげで、自分としても声をかけやすかった部分はあります」とチームのために、それぞれの役割を全うする。
若原選手はいつでも、何度でもコートに身体を投げ出しながらルーズボールを追い、ハッスルプレーでチームを引っ張ってきた。
「桜花学園の頃からそこは意識しています。得点を獲るのは他の3年生4人(平末明日香選手、岡田英里選手、藤本愛妃選手、永田萌絵選手)がいるので、自分は記録に残らない部分で活躍しようと思っていました。そこが自分たちの強みであり、ルーズボールなど泥臭いプレーをがんばろうと決めています」
苦しいシーズンだったが、若原選手は前向きに捉えている。「負けたからこそ成長することもできたと感じています。負けた試合をしっかり分析し、もう一度対戦したときには勝てるようにインカレに向けて準備してきました」と課題に向き合ったことで、自分たちらしさを取り戻す。その結果、最高の形でシーズンを締めくくることができた。
「ケガ人もみんな復活して、チームがひとつになって戦えたことはすごく良かったです。『絶対にインカレで優勝する』という気持ちがみんな強くて、それがチームのエネルギーになったおかげだと思っています」
優勝セレモニーを終え、約束の時がやってきた。若原キャプテンが大きな輪の中心で2度、3度と宙を舞う。初体験となった胴上げは、「すごいうれしかったです……でも、ちょっと怖かった」というのが直後の感想である。
高校3冠を達成した桜花学園でもスタメンを張っていた。4年間を全うした大学バスケは「高校とはフィジカルの強さなどは全く違いました。恩塚さんのバスケットで頭を使ったり、身体を鍛えたりする経験ができたことは、医療を選んで本当に良かったなってしみじみ思います」とさらに成長することができた。東京医療保健大学での戦いは幕を閉じるが、身体を張って戦う若原選手の姿は今後も見られるようだ。
「バスケットは続けていくつもりなので、医療で培ったものを発揮していきたいです」
全日本バスケットボール連盟
バスケットLIVEにて見逃し配信中
文・写真 泉 誠一