9月2日~10月29 日まで約2ヶ月間に渡り開催された関東大学リーグは拓殖大の31年ぶり3度目の優勝で幕を閉じた。今年の1部は「本命なき戦国リーグ」と言われたが、その中において持ち味の‟脚力„で勝負に出た拓殖大は、岡田侑大、ゲイ・ドゥドゥという伸び盛りのルーキーを上級生たちがしっかり支え、例年にない結束力が光った。自分たちの戦い方に迷いが見られるチームも少なくない中、いち早く「拓大カラー」を打ち出し、2ヶ月間を全力で走り切ったことでつかんだ優勝と言えるだろう。
フルコートで戦い抜くバスケットを目指した
■池内泰明監督
今年は僕がユニバーシアード大会など代表チームのスタッフとして留守になる期間が長かったので、その間、前監督でもある森下(義仁)さんに指導をお願いしました。そのとき僕の中にあったのは『自分が拓大時代にやったバスケットをベースとしたチームを作りたい』という思いで、それは当然、当時の監督だった森下さんも十分理解してくださり、それに即したディフェンスをしっかり指導してくださいました。
うちが目指したものをひとことで言えば『フルコートのバスケット』です。僕の大学時代も2-2-1や2-3のゾーンをやりましたが、それを今、フルコートでやるチームは少ない、あったとしても終始やり続けるチームはない。ならばそれができるチームを作りたいと思いました。幸いというか、今年は入替戦がない大会(来年より1部チーム数が12に増えるため2部の上位2チームが自動昇格する)だとわかっていたので、順位を気にせず挑戦できることも背中を押すきっかけになりました。とはいえ、このスタイルがどこまで通用するかわからなかったので「前半戦は厳しい戦いになるな」と考え、その覚悟もしていました。ところが、始まってみたら思いのほか選手たちの動きがよかった。相手が対応に苦しむ場面も多かったように思います。
ユニバーシアード大会に参加して外国勢のバスケットを見たことは僕自身の刺激にもなりました。たとえばフランスやドイツを見ても選手のピックアップがすごく速くて、サイズに関係なくゾーンプレスをするんですよ。こういうことを日本も常日頃からやっていかないと勝てないと痛感しました。ハーフコートでしかやってないとすぐにフルコートでやれと言っても難しいんですね。普段からフルコートでやってチェンジングしながら戦うチームを目指そうという思いがさらに強まりました。
また、選手個々を見てみると、1年の岡田、ドゥドゥは4年間かけて育てていかなければならない選手だと思っているので、多少ディフェンスが悪かろうと目をつぶって使い続けることは決めていました。心強かったのは周りの上級生たち、特に4年生がうまく彼らをサポートしてくれたこと。岡田のシュートが入らないときは飯田(遼)がすかさず声をかけるとか、ドゥドゥがファウルしたときはみんなが声かけして安心させるとか、そういうことでチームがより強固になっていったと思います。プレータイム云々より練習を見ても4年生たちが発揮するリーダーシップに個々の成長を感じています。
次の目標であるインカレはもう目前です。もちろんリーグ戦とインカレは戦い方も違いますし、そこを勝ち抜くことが容易でないことは承知していますが、それでも今回のリーグ優勝が選手たちにもたらした自信は非常に大きい。選手たちには「我々は関東1位のチーム、その誇りと責任を持ってインカレに臨もう」と話しています。
■阿部 諒(拓殖大4年)
戦国リーグと言われた今年のリーグ戦を勝っていくことはとても難しいことだというのは大会前からわかっていました。なので、開幕戦でいきなり2連敗したときも普通なら重い雰囲気になりますが、今年は全然そんなことがなくて「次に2連勝すればいい」とみんながポジティブにとらえていました。
今年のうちのストロングポイントを挙げるとしたら『結束力』だと思っています。1年生の岡田やドゥドゥがあれだけ活躍したのも、自分が言うのもアレですが、上級生たちがいつでも見守っていて、彼らも上級生たちを信頼しているからこそ思いっきりやれたのだと思います。チーム全員が同じ方向を向いて戦っているという手応えがありました。
インカレは一発勝負の大会ですから、相手に合わすのではなく自分たちのバスケットを貫くことが大事。それができれば「うちは強い」と思っています。
低迷した‟2強„はここから巻き返しを誓う
今大会、別の意味で注目を集めることになったのはこの数年‟2強„として大学界をリードしてきた筑波大、東海大の低迷だろう。中でも春のトーナメントを圧倒的強さで制した筑波大は当然のごとく優勝候補の筆頭に挙げられたが、絶対的エースと言われた馬場雄大がプロ選手としてチームを離れた(現Bリーグアルバルク東京所属)ことがチームに少なからず影響を与えることは間違いなかった。が、「馬場がいなくなったことより途中から自分たちのバスケットを見失ってしまったことが大きい」と、キャプテンの青木保憲は振り返る。
■青木保憲(筑波大4年)
馬場がいなくなることはわかっていたことなので、チームとしてはそれを踏まえた戦い方を目指してきました。だけど、負けが続いたときにいろいろなことを考え過ぎて自分自身が負の連鎖に陥ってしまったような気がします。本来ならば『どんな状態でもひたむきに頑張る』とか『前向きにプレーする』とかいったことが大切なのに、それを忘れて小手先の部分ばかりを考え過ぎてしまった。自分の心のバランス(を保つこと)も難しかったです。
今年のリーグ戦は横一線と言われましたが、そこで自分たちがなぜ勝ち切れなかったのかをもう1度しっかり見直さなければなりません。特に精神的な部分での見直しが必要です。どのチームも下級生が多く出ているのが今年の特徴とも言えましたが、だからこそ上級生がどういう背中を見せていけるかがチームの方向性を決める上で重要なものになります。
インカレまでの期間は短いですが、4年生として、キャプテンとして自分がやらなければならないことをやり抜いてチームとしてステップアップしていきたいと思っています。
大会の最終戦となった白鷗大戦で最大31点のビハインドを背負った筑波大は4Q中盤からの猛チャージで同点に追いつき、敗戦濃厚のゲームを延長戦で覆した。だが、この大逆転勝利を得ても杉浦佑成の顔には厳しい表情が浮かんだ。
■杉浦佑成(筑波大4年)
今日の試合も最終的には勝てましたが、オーバーゲームに持ち込んだヤスのシュート(青木保憲がブザービーターで決めた3ポイントシュート)も苦しまぎれに打ったのがたまたま入っただけ。途中までの展開にはたくさんの問題点がありました。
この大会を振り返ると本当に長かったという思いがまず浮かびます。リーグ戦をこれほど長く感じたのも、こんなに苦しく感じたのも初めてでした。馬場が抜けたことはもちろん大きかったですが、それよりケガで離脱した波多(智也・3年)の不在が痛手でした。リバウンドを取って自分でシュートまで持っていける選手がいなくなってしまったんですね。それによってこれまでのうちのリズムが狂い出して、リーグの早い段階で負けてしまうと修正するというより、みんなが自信を失って、チーム自体が迷走してしまったように思います。持ち味である速攻も全然出なくてまったくうちらしいバスケットができませんでした。
ただ、筑波はこんなもんかと思われるのは嫌ですし、こんなもんじゃないところを見せたい意地はあります。次のインカレには4連覇が懸かっていますが、プレッシャーを感じることなく、またここから出直すつもりで自分たちの力を出し切りたいと思います。
『ここから出直す』思いは今大会9位に沈んだ東海大も同様だ。敗戦が続くなか、途中から先発メンバーを1、2年生(新人戦優勝メンバー)に切り替えた陸川章監督は「力的に上級生が劣っているとは思っていません。ただ、その力を発揮しきれていない。インカレも先発を変えるつもりはないですが、それを支えるのはあくまで上級生。彼らの奮起に期待していますし、それを信じています」と語る。
リーグ優勝の勢いを味方に拓殖大が勝ち上がるのか、そこに待ったをかけるチームが現われるのか、筑波大、東海大の巻き返しは見られるのか、まさに『戦国時代』の様相を成す今年の大学界だけにインカレの戦いは例年以上に熾烈なものになりそうだ。今年の大学ナンバー1を決める最後の大会は11月20日からスタートする。
第93回関東大学バスケットリーグ 大会結果
■順位
優勝 拓殖大学(13勝5敗)
2位 専修大学(11勝7敗)
3位 大東文化大学(10勝8敗)
4位 青山学院大学(10勝8敗)
5位 筑波大学(9勝9敗)
6位 白鷗大学(9勝9敗)
7位 明治大学(8勝10敗)
8位 早稲田大学(8勝10敗)
9位 東海大学(7勝11敗)
10位 日本大学(5勝13敗)
■個人賞
最優秀選手賞 ゲイ・ドゥドゥ(拓殖大1年)
敢闘賞 盛實海翔(専修大2年)
MIP賞 齋藤拓実(明治大4年)
優秀選手賞 阿部諒(拓殖大4年)、岡田侑大(拓殖大1年)、アブ・フィリップ(専修大2年)、熊谷航(大東文化大3年)、木田貴明(青山学院大4年)
得点王 ゲイ・ドゥドゥ(拓殖大1年)
3ポイント王 ゲイ・ドゥドゥ(拓殖大1年)
リバウンド王 アブ・フィリップ(専修大2年)
アシスト王 森井健太(早稲田大4年)
文・松原貴実 写真協力・東海スポーツ